もちろん、デマやフェイクニュースを放置せよなどと言っているわけではない。ワクチンに関する「偽・誤情報」の監視や対策は、メディアやプラットフォーマーという民間がやればいい。そして、「国民のメディアリテラシー向上」も、国民自身が、「お前は間違っている」「お前こそデマを流すな」と互いに激論を交わせばいいだけの話だ。
つまり、国民が自分たちでやればいいだけのことに、国家権力が首を突っ込んでコントロールしようとしても、ややこしいことにしかならないから、やめた方がいいと申し上げているのだ。
国家権力が国民をコントロールしようとして起こること
では、具体的にどんな「ややこしいこと」が想定されるのか。例えば、こんなケースだ。
SNSで繰り返し「新型コロナワクチンを打つと死ぬ」「ワクチンで内臓が溶ける」などと発信をした人がいたとしよう。SNS上では「反ワク」「陰謀論者」などと批判されているが、それをものともせずに発信を続けている。
厚労省が発信しているコロナワクチンに関する情報には「打つと死ぬ」とも「内臓が溶ける」ともない。
ということで、これらの投稿を厚労省は「科学的根拠のない偽・誤情報」として判断し、「新型インフルエンザ等対策政府行動計画」に基づいて、さっそくSNSのモニタリングを開始した。しばらくして、フォロワーも徐々に増えて影響力も増してきたということで、総務省や法務省と連携して、前出の行動計画に基づいて、この人の投稿の削除依頼をすることにした――。
「なんの問題もない適切なデマ対策じゃないか」と思う人も多いだろう。しかし、「発信者情報開示請求」をしたところ、この人の家族がワクチン接種後に亡くなったことがわかったとする。となると、印象がまったく変わってくるのだ。
ご存じの方も多いだろうが今、新型コロナワクチン接種後に亡くなった人の遺族会や、重い後遺症に苦しむ人たちが、ワクチン接種を「薬害」として国に慰謝料を求めて集団訴訟を起こしている。
この件を報じたCBCニュース(4月17日)によれば、ワクチン接種後に亡くなるという「死亡事例」が2193人もいて、接種後の副反応報告は3万7000件を超えている。原告の中にも、接種後に息子を亡くしたという父親や、接種後に下半身不随になった男性もいる。
では、厚労省はこのように「接種後、死亡をした」「重い後遺症が残った」と訴えている人たちの訴えにどう答えているのかというと、「重大な懸念は認められない」――。つまり、「接種後に死亡」「重い後遺症が残った」と主張をしている人々というのは、国からすれば、「科学的根拠に基づかない偽・誤情報を騒ぎ立てる人」という扱いで、国家の威信をかけて、つぶしにきているのだ。
さて、そんな法廷闘争が進行しているなかで、これらの原告と同じ「ワクチン遺族」のSNS投稿を、政府が「偽・誤情報」として握りつぶしたと聞いたら、みなさんはどう感じるだろうか。
「政府は常に正しい」という人たちは、「裁判でもぶっつぶして、SNSのアカウントを凍結して、反ワクは徹底的に排除だ」と支持するかもしれないが、「なんかちょっとやりすぎじゃない?」とドン引きする人も少なくないのではないか。
中には、「国の責任を追及する遺族や患者を潰すため、国が有利になるような言論封殺をしているのでは?」と政府のやり方に不信感を抱き、「やっぱりワクチンは危ない」と確信を強める人もかなりいるはずだ。