金利が上がる新時代に対応した住宅ローン本『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』が発売され、SNS上では早くも話題を呼んでいます。
同書の著者であり、マクロ金融と住宅ローンの双方に精通する塩澤崇氏は、今後の不動産価格、特に都心のマンションについてどのように予測しているのでしょうか?
(※この記事は、『金利が上がっても、住宅ローンは「変動」で借りなさい』の一部を改変し公開しています。)

都心のマンションPhoto: Adobe Stock

人口減少の時代でも値上がりする不動産

 前回の説明から、「緩やかなインフレ」と「低金利」が、日本の不動産価格を上げる要素になることがおわかりいただけたでしょうか?

 でも、「日本は人口が減るから、不動産の価格は下がるのでは?」と心配している人もきっといらっしゃるでしょう。その疑問はもっともです。

 多くの人が知るように、今後、日本の都市部を除く地方では若者が減り、働き手がいなくなることが予想されます。日本全体として見れば人口減少時代の真っ只中にあり、2100年の人口は現在の半分以下になるという予測まであるくらいです。図の通り、もはや、平成までと令和以降は別の国と考えたほうがいいでしょう。

人口の半減が予想される人口の半減が予想される

 人がいなくなれば、これまでにあった生活に必要なサービスを受けられなくなるおそれがあります。実際、地方では採算が合わない鉄道路線が廃線になったり、病院がなくなったりといった問題が起きていますから、ますます地方から人が離れていくでしょう。

 すると、不動産の価格は落ちていきます。たとえば千葉市緑区に通称「チバリーヒルズ」と呼ばれるバブル期にできた分譲住宅地があります。販売当初は1軒あたり5億~15億円ほどで売買されていたようですが、バブルが崩壊して今や1億円ほど。買った物件によっては完成した頃の価値が10分の1になってしまっています。

 とはいえ、このような値下がりのリスクは、今後の日本社会を見据えたうえで、「家を買う場所」を慎重に選べば避けられます。

 そもそも人口減少は日本全体でひとしく起こるものではありません。都心部ではむしろ人口集中が起きると私は予測しており、地方や郊外とは分けて考える必要があります。

 繰り返しですが、昭和や平成の時代は人口増加でした。土地開発は郊外へ郊外へと広がりを見せていました。新しい道ができ、コンビニやファミレスなどのロードサイド店が数多くできた時代です。「都心部の混雑は避けて、郊外で緑に囲まれてゆっくり暮らしたい」と郊外ライフに憧れる人も多かったことでしょう。

 一方、令和の時代は人口減少です。「地方や郊外はゴーストタウンになる」のような記事も出るぐらいですから、人々の関心は「生活基盤が維持されやすい都心部にいかに住むか」と、郊外から都心にシフトします(もちろん、共働きによる職住近接ニーズもあります)。

 このように、人口増加時代と人口減少時代では、人々の興味関心が向かうエリアが真逆になるということも頭に入れておきましょう。

 今後人口が都心に集中するということは、さまざまなサービスも都心部に集中するということです。そしてそのサービスに惹かれて、より一層人が集まるという好循環のスパイラルが生まれます。たとえば、有名大学への進学実績がある私立中高は都心部に集中していますよね。そのため、教育熱心な層は通学できる範囲に住もうと考えるでしょう。私自身も子どもがいるので、同様に考えて家選びをしました。

 日本に住む人のみならず、海外投資家にとっても都心部の不動産は魅力的な市場です。とくに昨今は円安が進んでいて、海外からみた日本のモノの値段が割安になっていますから、海外のお金が日本の都心部の不動産に流れやすくなっています。

 あまり知られていませんが、日本は世界の不動産投資家から「透明性が高い国」として注目されていて、世界的な不動産仲介会社のジョーンズラングラサールが公表した2022年版グローバル不動産透明度インデックスでは世界で第12位につけています。これはシンガポールやスイスよりも上位であり、かなりの好成績です。

 また、中華圏の投資家と日本の不動産をマッチングしている株式会社神居秒算が2023年に実施した調査では、中華圏の投資家329人のうち、約9割が「日本への不動産投資タイミングは今だ」と回答しました。

 このような理由から、主要な都心ターミナル駅近の物件であれば、今後価格が落ちることは考えにくく、むしろインフレや海外投資家による追い風を受けて値上がりする可能性が高いでしょう。

都心のファミリーマンションは2億円になる?

 それではここで、実際にどれくらい値上がりするのかを予想してみたいと思います!

 今後、20230年にかけてとくに値上がりが見込まれるのが、図にあるように、港区や渋谷区、新宿区、千代田区など東京都心部(図の中央部分)です。

東京のエリア別不動産価格予想東京のエリア別不動産価格予想

 不動産価格は一般的に、新築マンションがプライスリーダー(価格先導役)となり、それにつられて周辺の中古マンション価格も値上がりする動きを見せます。ですので、まずは新築マンションの価格がどうなるかを考えてみましょう。

 新築マンションの年間販売戸数は現在、東京23区内で1万戸、山手線内だとわずか1000~2000戸程度といわれています。23区内に住んでいる人は約1000万人いますので、極端な例ですが、そのうちの1万分の1である1000人が買える値段であれば、物件は売り切れます。

 つまり、不動産を販売するデベロッパーにとっては、売る価格を「みんなが買える値段」にする必要はないのです。先述したインフレや低金利もあって不動産購入意欲は相当強く、高所得者1000人を相手にすればビジネスが成り立ちますから、低価格競争が起きる可能性は低いです。

 さらに最近は海外投資家が買ってくれるケースが増えているので、日本人に売る数はもっと少ない人数、たとえば500人くらいでも問題ないかもしれません。そうなると、値付けはより強気になってくると考えてもおかしくはないでしょう。

 こうした新築マンションの強気の相場を踏まえると、東京都心部の一般的な中古マンション(70平方メートル)は今のところ1億円が相場ですが、今後10年で2億円程度に値上がりしても不思議ではありません(もちろん不動産なので、短期的には価格調整はあるとは思いますが)。なお、2億円という水準は、医師や投資銀行マンなどのプロフェッショナル職、商社などの高年収企業のパワーカップルの世帯年収(3000万円程度)を前提にギリギリ買える許容額として算出しました。

 以上のように、山手線内のエリアでは、基本的には年収3000万円以上のエリートサラリーマンや経営者、海外投資家が家を買い、一般的な世帯はその周りに住むことになると思います。

 こうした価格上昇は東京だけで起きている現象ではありません。次の図は日本の主要都市の家賃推移です。大都市圏の多くでマンションの家賃が上がっていることに注目しておきましょう。家賃が上昇すれば、「このまま賃貸で住むよりも、買ったほうがお得」と考える人が増え、物件価格が上昇する要因になりますから、主要都市部の物件価格はまだ上がると考えていいでしょう。

マンション賃料の推移マンション賃料の推移(2009年Q1を100とする)

 一方で、持ち家は大きな買い物ですから、「万が一リーマン・ショック級の不況が来たら不動産価格が暴落するんじゃないの?」と心配する方もいると思います。

 でも、たとえそのような金融危機が起きたとしても、こと不動産に関しては暴落は考えづらいでしょう。実際、次の図のようにリーマン・ショックの渦中でも不動産価格の下落は10%程度でした。もちろん、1991年のバブル崩壊時は不動産価格は大きく下落しましたが、現在は企業の収益増や賃金上昇などの実態を伴う景気回復であり、バブル状態ではないと考えています。

不動産価格指数不動産価格指数(全国、2010年平均を100)

 余談ですが、時々、不動産価格が暴落するまで自宅購入を待っている方がいますが、暴落するまでの家賃支払額もバカにはなりません。暴落時期、暴落確率および価格の下落幅を踏まえると、有効な作戦だとは思えません。

 話を戻しましょう。勤務先に近く、かつ駅近の物件へのニーズは引き続き堅調であり、インフレや職住近接ニーズの追い風を受けて都心部の不動産価格は上昇する可能性が高いでしょう。不動産を短期売買するような方でなければ、それほど不動産価格の下落を心配する必要はないと思います。

 むしろ、これから本格化するインフレに備えるという意味で、積極的に価値ある不動産を買っておくことが大切です。収入やご家庭の状況にもよりますが、もし少し背伸びすれば都心の好立地物件が手に入るという方は、若干のリスクを背負ってでも家を買うのは一つの手段だと思います。