この先、今ある仕事の多くがAIに取って代わられるとされるが、そこで求められるのが絶えざる仕事力の向上である。仕事力を向上させたいというのは、だれもが思うことのはずだが、ただがむしゃらに仕事に向き合えばいいというわけではない。仕事力の向上に必須の能力には、メタ認知能力、認知能力、非認知能力の三つが大きいと私は考える。今回は、その一つである「メタ認知能力」について考えてみたい。(心理学博士 MP人間科学研所代表 榎本博明)
仕事力にみられる問題の背後には
「メタ認知能力の乏しさ」がある
従業員の仕事力に関して管理職を悩ませるさまざまな問題には、メタ認知能力の乏しさに起因するものが少なくない。指示待ち人間が多くて困るという声をよく耳にするが、うちでは指示通りにさえ動くことができない人物に手を焼いている……そのように嘆く管理職がけっこういるのである。仕事のやり方を何度教えても間違えるし、いくら注意しても同じようなミスを繰り返すのだという。
いくら言われても、なぜ同じようなミスを繰り返すのか。そこにはメタ認知が絡んでいる。
教えられたとおりにやろうとしても、うっかり間違えてしまうというのは、初心者にはよくあることだ。そんなとき、間違いを指摘されたり、もっと能率の良いやり方を示されたりして、「あっ、そうか、そういうふうにやるんだった」「うっかり間違えちゃった」「そういうふうにやれば、もっと能率よくこなせるんだった」などと反省することで、つぎからは自分で注意しながら取り組むようになり、仕事のやり方は改善され、同じようなミスはしなくなる。
メタ認知がしっかり機能している人の場合はそうなる。注意されれば反省するし、それによって改善されていくのは当然のことだと思うのは、メタ認知がしっかりと機能している人だからである。自分のやり方を振り返り、どこがまずかったのかを確認し、ちゃんと反省し、これからは気を付けないと、と心に刻む。だから改善されるわけである。そのような人からしたら、同じようなミスを繰り返すなど、「あり得ない」ことと言える。
ところが、いくら注意されたりアドバイスされたりしても、一向に改善されず、同じようなミスを繰り返す人物が現実にいる。それもけっして少数ではない。そのような人は、メタ認知がうまく機能していないため、仕事のやり方が改善されないのである。