変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

「1on1で失敗する上司」がやっている1つの間違いとは?Photo: Adobe Stock

認知が広まる1on1の重要性

 近年、1on1ミーティングの重要性が広く認識され、多くの企業で積極的に実施されるようになっています。1on1は、上司と部下が直接対話をする機会を提供し、関係性の向上や業務の効率化、チームのパフォーマンスの最大化に寄与することが期待されています。

 しかし、残念ながら全ての企業でこの人事施策が成果に結びついているわけではありません。中には、1on1が原因で部下との関係が悪化してしまったという例も少なくありません。

抽象的な質問の弊害

 このような失敗の背景には、ある1つの大きな問題点が潜んでいます。

 それは、上司が部下に対して行う質問の質です。部下の業務や心情を深く理解するためには、適切な質問をすることが求められます。しかし、多くの上司は抽象的な質問に終始してしまい、本質的な情報を引き出せていないのが現状です。

 たとえば「最近の課題は何か?」「お客さんとはうまくいっているか?」といった質問は、一見して状況を広く把握するために有効に思えるかもしれません。しかし、こうした漠然とした質問に対しては、むしろ部下は何をどう答えるべきか悩んでしまうことが多いのです。

 抽象度が高すぎる質問に対する回答は、一般的で曖昧なものになりがちです。そうした回答からは部下が本当に直面している問題や感じている課題を引き出すことが難しく、結果として具体的な解決策や改善点が見えにくくなります。

 また、部下が「何を言っても的確なアドバイスをもらえない」と感じることにより1on1の意義が失われるだけでなく、上司への信頼が低下し、コミュニケーションが疎遠になることもあります。

具体的な質問を通じて築ける信頼関係

 効果的な1on1を実施するためには、上司は具体的なエピソードや事実に基づいた質問を行うことが重要です。

 たとえば、「現在取り組んでいるプロジェクトの中で、思った以上に時間がかかっている点など、困ったことはあったか?」「最近対応したクライアントからのフィードバックで、特に気になる点は何か?」といった具体的な質問を投げかけることで、部下は自身の経験や感じたことを具体的に話しやすくなります。

 このような具体的なやり取りを通じて、部下の立場や考え方、直面している課題をより明確に理解し、適切なサポートやアドバイスを提供できるようになります。また、部下にとっても、自分の意見や状況をしっかりと聞いてもらえるという安心感が生まれ、上司との信頼関係が強化されるでしょう。

 さらに、アジャイル仕事術の活用も1on1の質を向上させるカギとなります。アジャイル仕事術は、迅速なアウトプットとフィードバックを重視する手法であり、これを1on1に取り入れることで、短期間で効果的なコミュニケーションが可能となります。

 具体的には、部下が提案したアイデアや解決策に対してすぐにフィードバックを行い、その場で改善点を話し合うことで、実践的かつ建設的な対話が生まれます。このプロセスを繰り返すことで、上司と部下の間に信頼関係が築かれ、1on1の効果が最大化されるのです。

『アジャイル仕事術』では、チームの生産性を上げる方法をはじめ、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。