大きいほうが美味しい?
芯のほうが香りが強い?

 他にも、白トリュフは大きいものがいい、と喧伝しているお店があります。大きいもののほうが小さいものより香りが強い、ということかと思いますが、それは全くの嘘です。大きいものは立派に見え、数が少ないという希少性があるだけで、だから味がよくなるわけではない。小さくても鮮度が良ければ香り高いのです。

 イタリアで白トリュフを扱う有名店に聞いたら、率直に教えてくれます。大きいものは大人数が集まるパーティーやお祝いなどで縁起が良いから重宝されるのであって、風味は関係ない、と。縁起物で大きいもののほうがグラムあたりの単価が高かったりするので、お店が何も知らない客に高いものを売りつけたいだけなのではないか、と勘ぐってしまったりします。

 また、トリュフは芯の部分がおいしい、などという人もいるようですが、これも全くの嘘です。本当に芯のほうが香りが強いとしたら、それは鮮度が落ちた古いトリュフで、表面に近い部分から水分が飛んでしまっているからです。芯まで掘っていかないと、香りが残っていないのです。芯の部分がおいしい、というのは、自分たちのトリュフは古いと白状しているようなものです。

白トリュフは「鮮度」がすべて

 白トリュフに関して、最も大事なのは鮮度です。日本の松茸も同様で、鮮度が悪いと香りも味もとても残念な状態になってしまうのは、想像いただけるはずです。

 富松さんが白トリュフを日本に輸出するときには、自らトリュフをミラノの空港まで運んでいます。また、提携している卸が検疫後に東京の空港までトリュフを取りに行っています。とにかく鮮度に気をつけて、最短時間で持ってきて3~4日後くらいにはレストランで食べられるようにしています。

 しかし、残念なことに多くの店では、鮮度の良くない白トリュフを使っています。特に、お客さんの回転が悪い店だと、1週間以上経っていることもあります。こうなると、高い価格を払う価値はありません。

 また、お店側も使いこなせないのなら、白トリュフを仕入れなければいいと思います。実際、白トリュフの季節にイタリアを食べ歩いていると、産地の店でも白トリュフが出てこないことはよくあります。

 僕の記憶が正しければ、1998年頃のパリでは、高級レストランの白トリュフ尽くしのコースが4万円ほどでした。今振り返れば激安といっていいくらい安かったし、今ではこの3倍でも済まないかもしれません。僕がピエモンテを訪れるようになってからでも、価格は上昇し続けています。

 記録によると、アルバ唯一の三つ星レストラン「ピアッツァ・ドゥオーモ(Piazza Duomo)」のトリュフの単価は、2014年には1グラム当たり6.5ユーロ。それが、2023年は1グラム当たり14ユーロでした。今後も価格が下がる要素は見当たらず、ますます幻の食材になりそうです。

(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)

浜田岳文(はまだ・たけふみ)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。