世界のビジネスエリートの間では、いくら稼いでいる、どんな贅沢品を持っている、よりも尊敬されるのが「美食」の教養である。単に、高級な店に行けばいいわけではない。料理の背後にある歴史や国の文化、食材の知識、一流シェフを知っていることが最強のビジネスツールになる。そこで本連載では、『美食の教養』の著者であり、イェール大を卒業後、世界127カ国・地域を食べ歩く浜田岳文氏に、食の世界が広がるエピソードを教えてもらう。
「どれがおいしいですか」と聞くのは要注意
レストランで、コースではなくアラカルトのメニューから選ぶとき、料理人が食べてほしそうなものを探し当てる楽しみがあります。ただ、これには経験値が必要です。僕も、食べたことがない国の料理だったとしたら、皆目わかりません。
迷った場合、サービススタッフ(カウンターの場合は料理人)に聞くのが一番です。
好きな食材や調理法など自分の好みを伝えて、何を頼めばいいか、アドバイスをもらう。仮に何を食べたいか自分で目処がついたとしても、初めてのお店だとどれくらいの量出てくるのかわからないので、適切な皿数を確認するのにサービスのアドバイスは有用です。
日本で聞いてもあまり意味がないのは、「どれがおいしいですか」という質問です。
優しいお店なら、その質問をされたときの答えをすでに用意していて、これが当店のおすすめです、とすんなり教えてくれますが、頑固なサービスやご主人のお店だと、「全部おいしいです」といわれて気まずい思いをすることがあります。海外ではまずそういうやりとりはありませんが、日本では要注意です。
迷ったら、なんと聞くべきか?
だから、聞くとしたら、「どの料理が人気ありますか」「どの料理がよく出ますか」と聞いてみるといいと思います。これだと、事実を確認しているだけなので、頑固なお店の人に渋い顔をされるリスクは軽減できます。
海外の場合は「どれがおいしいですか」と聞くと、お店のおすすめというよりは、サービススタッフ個人の好きなメニューを教えてくれることが多いように思います。なので、「あなたはどれが好み」と聞くのと結果的に同じです。
日本だとなかなかないと思いますが、海外だと「これが好き」だけでなく、「これは好きじゃない」「やめてこっちにしたほうがいい」など、大丈夫かなと思うくらいはっきり教えてくれます。「あなたがおすすめしてくれた料理、おいしかったよ」と食後に伝えると、嬉しそうにすることも。
これも、レストランという場でのコミュニケーションの醍醐味のひとつです。
(本稿は書籍『美食の教養 世界一の美食家が知っていること』より一部を抜粋・編集したものです)
1974年兵庫県宝塚市生まれ。米国・イェール大学卒業(政治学専攻)。大学在学中、学生寮のまずい食事から逃れるため、ニューヨークを中心に食べ歩きを開始。卒業後、本格的に美食を追求するためフランス・パリに留学。南極から北朝鮮まで、世界約127カ国・地域を踏破。一年の5ヵ月を海外、3ヵ月を東京、4ヵ月を地方で食べ歩く。2017年度「世界のベストレストラン50」全50軒を踏破。「OAD世界のトップレストラン(OAD Top Restaurants)」のレビュアーランキングでは2018年度から6年連続第1位にランクイン。国内のみならず、世界のさまざまなジャンルのトップシェフと交流を持ち、インターネットや雑誌など国内外のメディアで食や旅に関する情報を発信中。株式会社アクセス・オール・エリアの代表としては、エンターテインメントや食の領域で数社のアドバイザーを務めつつ、食関連スタートアップへの出資も行っている。