デジタル化が進む社会にあって、文房具メーカーの「三菱鉛筆」が絶好調だ。2020年のコロナ禍では営業不振で売上高が落ち込んだが、どうやって売上高を回復させたのか。その秘密に迫った。(イトモス研究所所長 小倉健一)
2年連続で過去最高の売上高
3年目も順調な滑り出し
デジタル化が進む社会にあって、時代遅れ、オワコン製品とも見られてきた「えんぴつ」を代表とする文房具。その文房具メーカー「三菱鉛筆」が絶好調だ。
4月25日に発表された同社決算資料(三菱鉛筆株式会社「2024年 12月期 第1四半期決算補足説明資料」)によれば、24年第1四半期の売上高は、過去最高の売上高を記録した23年を超える水準となり、順調な滑り出しだという。
同社は22年にも過去最高の売上高を達成しており、2年連続の更新となり、3年目も順調すぎる滑り出しをしている。2月には、ドイツ高級筆記具メーカーのLAMY(ラミー)を買収している。
アマゾンの「油性ボールペン」売れ筋ランキング(7月16日)では、1位が「三菱鉛筆 油性ボールペン ジェットストリーム 5本 0.5mm」、2位「三菱鉛筆 油性ボールペン ジェットストリーム 5本 0.7mm」…と4位までが三菱鉛筆が独占し、5位にやっと「トンボ(Tombow) 鉛筆 加圧式油性ボールペン エアプレス 0.7mm イエロー」がランクインしている。
ちなみに、6位も8位も11位も13位も15位も三菱鉛筆製品だった。競合メーカーを差し置いて利用者の強い支持を得ていることがわかる。
会社の余命は2年
コロナでしぼんだ需要
だが、ここに至るまでは決して平たんな道のりではなかった。20年はコロナ禍で文房具の需要は下落した。新型コロナウイルスが広まり始めた20年3月に当時社長だった父から会社を承継したのが、数原滋彦氏だ。
<2020年、コロナ禍のまっただ中に社長に就任しました。
街中で多くのオフィスが閉まり、文房具の需要は大きく下落しました。
「一番つらい状況だった」といいます。(中略)
入社以来、デジタル化の波を見てきた数原氏。
「書くこと」は少なくなっていくことは時代の成り行きだと感じていました。
「一本足では厳しい。もし売上がゼロになったら、どれだけ会社が存続できるのか」。
財務部門の分析によると、2年間は存続できると分かりました>
(ウェブメディア「賢者の選択サクセッション」『デジタル化が進んでも「三菱鉛筆」が過去最高売上高を達成した理由』24年3月29日)
<会社の余命は2年だった。新型コロナウイルスが流行し始めた2020年、文具の注文が日を追って減った。「ゼロになったら会社はいつまで持つか」。三菱鉛筆の数原滋彦社長は経理部に調査を指示した。結果は2年だった>
<コロナ禍では需要が突如、干上がった。見本市への出展や工場の運営費などあらゆる経費を抑えた。それでも追いつかない>
(日経新聞、24年7月5日)
と複数のメディアが報じているように、コロナ禍で文房具の需要が蒸発してしまったのだ。現在、三菱鉛筆の株価は2700円台(7月16日現在)で推移しているが、20年には1021円(20年3月17日)と現在の半額以下の価格になってしまっている。
では三菱鉛筆はどうやってこの苦境から脱したのか。