ヒット商品の裏には必ず「インサイト」あり。消費者がモノを思わず買いたくなってしまう心のスイッチ――「インサイト」を活用し、新しい市場を切り拓く方法とは。国内での新規事業の創出だけでなく、インドや中国といった海外進出の際に実際に使われた方法もまとめた新刊『戦略インサイト』。本連載ではそのエッセンスや、マーケティングに関する最新トピックを解説していきます。

「いいモノ」さえつくれば売れる?

技術的にすぐれた、性能や品質のいいモノをつくって流通さえさせれば売れる、という日本企業のかつての成功法則は通用しなくなってきている、そう感じている方は多いでしょう。日本でも海外でも、人々が求めるモノを提供できなければ、いくら高品質でも買ってもらえないことに誰もが気づいていると思います。

「マーケティング」という言葉は誰もが知っています。そして、マーケティングは「顧客価値を創造すること」であり、マーケティング4P(Product/Price/Promotion/Place)の概念もよく知られています。

しかし、日本企業で「マーケティング」は何を指しているでしょうか?
「販売」「広告」「調査」「顧客サービス」など、限られた企業活動を指していることが多いのではないでしょうか。そして、最も重要な「モノづくり(製品開発)」が含まれてこなかったのではないでしょうか。

製品は、自社の独自技術や研究開発の成果から生み出され、マーケティングは、製品が出来上がってから、それを販売する手段としてスタートする。これでは、ニーズをとらえたモノづくりをしようがありません。しかし、この方法で成功体験を積み重ねてきた日本企業は、そう簡単には変わることができないでいます。

国内市場が人口減で縮小していく中、日本企業が成長していくためには、海外市場の開拓が不可欠です。海外の人々に買ってもらう、あるいは利用してもらうためには、海外の人々が何を求めているかを見極め、製品開発に活かす必要があります。今までのような、高機能・高品質な製品というだけでは、見向きもされないでしょう。モノづくりにもマーケティングの考え方を取り入れる必要があるのです。

国内市場でも、縮小するパイを取り合いしていたのでは成長は見込めません。人々の潜在ニーズを掘り起こし、新たな需要を創造していく必要があります。また、日本国内にとどまっていたとしても、海外からグローバル企業が参入してきます。それらのグローバル企業と戦うためにも、人々のニーズをとらえるマーケティングの考え方は不可欠です。
「日本も、世界の中のひとつの市場」なのです。

本書『戦略インサイト』のタイトルにもなっている「インサイト」とは、人々の潜在的なニーズのこと。まだ顕在化していない、人々自身も気付いていないようなニーズのことです。本書では、インサイトという潜在ニーズを見極め、製品開発を含むマーケティング活動に活かして、事業に成功をもたらす考え方や方法論をまとめています。

まだ、どの企業もとらえていない潜在ニーズをとらえ、新たな市場を創造することが、グローバル企業との体力勝負や現地企業との価格競争に陥らずに成功するカギとなるのです。
けっして、インサイトを見つけることがゴールではありません。インサイトを製品開発などのマーケティング活動に結びつけ、事業に成功をもたらすことがゴールです。