あなたがその装置を使わないと、この女性はすぐに死んでしまします。

 さらに、この装置を使うと、あなたにも健康上のリスクがあることがわかりました。下手をするとあなたも死んでしまう可能性すらあります。あなたならこの装置をつなげられますか?

【解説】
 この思考実験はアメリカの哲学者のジュディス・ジャーヴィス・トムソンが考えたものです。「ザ・バイオリニスト」の思考実験とは、命の責任を問う問題です。

 この思考実験はもともと妊娠中絶の倫理的な問題を考えるためにつくられました。

 妊娠中の女性がその身体を使用している胎児にとっては、なくてはならない存在と見なすことができます。そして、女性が妊娠を継続させることは、胎児にとって生存の唯一の手段です。しかし、その女性が妊娠を中絶することは、胎児にとって致命的な結果になります。妊娠中は女性にも健康のリスクが高まります。

 ただ、この問題の場合、あなたとバイオニリストは他人です。

 この問題では、他人を助けるために自分の健康のリスクを負うべきではないという回答をする人が多いのも事実です。

 自分の子どもと赤の他人では命の重さは違うと考える人がいるのも無理はありません。

 あなたはこの状況でバイオニリストを助けることができますか?

他人から強制された「幸せ」は
本当の幸せと言えるのだろうか

【思考実験3「完全幸福クスリ」】

 あなたはスイスで3歳の子どもと暮らしています。

 ある日、子どもが病気になり、治療しても回復の見込みがないことがわかりました。子どもの病気はかなり進行しており、苦しんでいる姿を見るたびに心が締めつけられます。

 最終的に、医者から安楽死を勧められます。あなたは悩み、子どものためを思って安楽死させてあげることにしました。しかし、あなたは子どもがいなくなることの絶望感にさいなまれ、パニック状態になってしまいました。