「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。

成功するリーダーは、この力が優れている!Photo: Adobe Stock

誰もが考えないことを考える力

 P&GでCEOまで務めたマネジメントの方が自身の信念を語られた話を聞く機会があり、もっとも印象に残ったのが、この言葉でした。

「An ability to entertain inconceivable」

 英語を日常的に使う人でも、ちょっと首をかしげてしまうようなフレーズかもしれませんが、わかりやすく日本語に訳せば、こうなると私は思っています。

「誰もが考えないことを考える力」

 つまりは、変革をしようとする、ということです。

 物事は多くが型にはまって動いてしまっています。そのほうが、ラクでスムーズだからです。そんなときに「いや、そうではない」とまったく違うことを考え、行動に移そうとすることは、簡単ではありません。殻を破ることは難しいのです。

 しかし、普通の人がなかなか考えない、やらないことを意識するからこそ、新しい未来が拓かれていく。世界が動いていくのです。

 南米で飲まれているお茶を日本に持ってこようという「太陽のマテ茶」の発想や、日本コカ・コーラからアルコールの新しいブランドを出してみよう、という発想もそうでしょう。自動販売機の温度を2度上げてみようという試みも、まさに今まで誰も考えたことがない、私だけのチャレンジだったと思います。  

 人がなかなか考えそうにないことを、あえて意識して考えてみる、殻を破る。優れたリーダーやイノベーションを起こしてきた人というのは、この力が優れているのだと私は思っています。何より大事なのは、自分で目に見えない殻を作らないことです。

 だから私が常に頭に置いていたのは、既存の製品を担当しつつも、「ブルーオーシャン」だったり、新しいサブカテゴリーが作れるのではないか、ということだったのです。

 すぐに出せなかったとしても別に構わない。2年、3年とかかってもいい。消費者が欲しいと思えるけれど、今は世の中にないもの。それをいつも考える。考え続ける。「レッドオーシャン」で戦うことばかりを考えず、「ブルーオーシャン」にもフォーカスしてみる。イノベーションを考えるときのフレームワークに入れる。

 これは、仕事を楽しむ秘訣の一つだとも思っています。新しいことを考えることは、楽しいからです。チャンスは間違いなく、あるはずなのです。

成功するリーダーは、この力が優れている!

和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。