上司や先輩から「もっとよく考えろ!」と言われても、どうすればいいのかわからない……。そんな人におすすめしたい分析方法が、「比較」だ。人気の社会派ブロガー・ちきりん氏は、著書『自分のアタマで考えよう』の中で、「『比較』は誰にとっても身近な分析手法」と語る。本記事では本書の内容をもとに、比較することでなにが見えてくるのか、比較が思考をどのように助けてくれるのかなどについて紹介する。(構成:神代裕子)
「比較」はもっとも役立つ分析方法
新入社員の頃に、先輩や上司から「もっとよく考えよう」「自分の頭でちゃんと考えた?」などといった言葉をかけられたことはないだろうか?
筆者も初めての職種に就いたときに、上司から「自分でもっとよく考えなさい」と言われた経験がある。
その時は、自分ではちゃんと考えている「つもり」だったので、どうすればいいかわからなくて困ってしまった、という苦い思い出がある。
経験を積んだ今となっては、上司の言いたかったことは理解できるようになったが、当時の筆者のように、いざ「考えろ」と言われたら、なにをしたらいいかわからないという人も少なくないのではないだろうか。
『自分のアタマで考えよう』の中で、ちきりん氏は「考えるためにもっとも役立つ分析手法」として「比較すること」を挙げている。
比較をすることで、その事象についての自分なりの考えが浮かんでくるというのだ。
比較には「対象」と「項目」が必要
比較する場合は「なにとなにを比較するのか?」(比較の対象)と、「どのような点について比較するのか?」(比較の項目)が必要である、とちきりん氏は説明する。具体的には次のようなことだ。
3つの企業について、安定性、収益性、成長性を比較したとする。
たとえば、3社の中で、手元資金が潤沢で安定性が高い企業は「伝統的な大企業」と見ることができるだろう。
安定性と収益性は低いが成長性が一番高い企業は「伸び盛りのベンチャー企業なんだな」と分析できる。
ある企業の収益性が高い理由が「世界でこの会社しかつくれない製品があるので利益率が高いから」なのであれば、その会社は「ニッチなグローバル技術企業である」と判断してもいいだろう。
比較することで、分析が進み、自分なりにそのモノや事象に関して考えを持つことができるのだ。
覚えておきたい、二種類の比較
また、「比較」は自社と他社だけでなく、時系列で判断することで他のことも見えてくる。
たとえば、ある会社の技術力を「現状」と「あるべき姿」で比較するとする。
・経営目標……中心的な技術分野を定め、関連技術を集約したい
この2つを比較することで、この会社が技術力において「経営目標を達成するためになにをしたらいいか」が見えてくる、というわけだ。
ちきりん氏自身、証券会社に勤めていたときの先輩や、対談したライフネット生命保険の社長・出口治明氏から「他者比較と時系列比較」の重要性を教わったという。
この二種類の比較を使いこなすことで、物事を多方面から分析でき、「考える力」がぐっと上がるのを感じていただけたのではないだろうか。
プロセスに分解して比較する
本書ではもう一つ、応用編として、「プロセス比較」を紹介している。
ただ漠然と二者を比較するのではなく、プロセスの各段階で比較していくことで、どこに違いがあるのかが明確になるという。
本書では、「ダメ主婦(主夫)とお料理上手主婦(主夫)のプロセス比較」として、料理のプロセスを「献立の決定」「買い物」「料理」「片付け」「保存」に分けて比較している。
すると、次のような巧拙が見えてきた。
ダメ主婦→事前には考えない
お料理上手→事前に数日分のメニューをまとめて考える
●買い物
ダメ主婦→その場でおいしそうなモノ、オトクなモノを買う
お料理上手→献立に沿って必要なモノを買う
●料理
ダメ主婦→その日、食べる献立をつくる
お料理上手→その日の分に加え、翌日以降の分の下ごしらえも同時に済ませる
(P.111)
同じく、「片付け」や「保存」のプロセスにおいても、両者を比較するとその方法や手際の良さなどに差が浮かび上がってくるわけだ。
こうして比較してみると、調理の腕前だけで料理が上手かどうかが決まっているわけではないのがよくわかる。
なにが問題なのかを考えるときや、より良い方法を見出す際などにも使えそうな方法だ。ぜひ覚えておきたい思考の手法と言える。
思考を助ける手法を手に入れる
あてもなく漠然と思いを巡らしているだけであれば、それは「思考」しているとは言えない。
しかし、本記事で紹介した「比較」という手段を身につけるだけでも、今までとは違った視点で物事を判断したり検討したりすることができそうだ。
本書には他にも「データの見方」や「グラフの使い方」、「情報にフィルターをかける必要性」など、思考を深めるためのさまざまな手法を教えてくれる。
これらの手法を活用して「考える力」がつけば、ビジネスにおいても、社会で起きているさまざまな出来事に対しても、自分なりの考えを持つことができるようになるに違いない。
「自分の頭で考える力」を身につけたい人に、ぜひおすすめしたい一冊だ。