「鋼のメンタルを持たなきゃ」「ポジティブに考えなきゃ」と思いながらも、ついネガティブに考えてしまう人も多いのではないだろうか?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。
ここ20年以上、悩んでいない理由
私はここ20年以上、まともに悩んだことがない。
こういう話をすると、「それは人生が順調だからでは?」と言われる。
私は2000年に「北の達人コーポレーション」の前身となる会社をゼロから立ち上げ、上場企業にまで成長させた。
その実績だけを取り上げれば、たしかにすべてがうまくいっているように見えるだろう。
とはいえ、たった一人で資本金1万円で起業し、東証プライム上場企業になるまでには、ふつうの人の人生に比べてはるかに多くの困難にぶち当たっている。
その途中のプロセスにおいては、数えきれないくらいの失敗や苦難があった。
経営者というのは「悩みのタネ」には事欠かない職業である。
身体が大きくなれば、あちこちをいろんなところにぶつけるように、事業の規模や範囲が拡大すればするほど、各所から相談事やトラブルが次々と持ち上がってくる。
いまでも日々、思いどおりにいかないことはいくらでもある。
ギリギリの判断を迫られて迷うこともあるし、「嫌だな……」とか「ツラいな……」と感じることも挙げればキリがない。
苦労自慢をするつもりはないが、ふつうの人が私の人生を肩代わりすることになれば、たちまちストレスで潰れてしまうだろう。
しかし、どんなことがあっても、私自身は悩まない。
それは決して“悩みを解決できているから”ではない。
文字どおり“最初から悩んでいない”のだ。
「メンタルの強さ」は幻想である
じつをいうと、起業してから2年ほど経った頃、私は詐欺に遭ったことがある。
大学卒業後、新卒で就職したリクルートを辞めて起業したものの、最初はなかなか売上が立たず、会社は超低空飛行の状態が続いていた。
「事業が軌道に乗るまでは自分の給料をゼロにする」と決めていた私は、兼業で稼いだアルバイト代とサラリーマン時代に貯めた貯金とで食いつなぐ日々を送っていた。
騙されたのは、ようやく大きな売上が立ち始め、そろそろ自分の給料を取れそうになった翌月のことだ。
取引先(だと思っていた詐欺グループ)に商品を持ち逃げされ、120万円のお金が飛んでしまったのである。
これは当時の私の全財産だった。
けれども翌日、私はいつものように仕事に戻っていた。
売上回収のメドがついたからではないし、詐欺師たちが逮捕されたからでもない。つまり、何か問題が解決したわけではないのだ。
もちろん、お金が戻ってこないことにはヘコんだし、私を騙した人たちには腹が立った。
それでも私は、この出来事によって悩むことはなかった。
翌日には何もなかったかのように、手を動かし続けていた。
むしろ、いつもより機嫌がよかったくらいだ。
なぜそうだったのかは本書で説明する。
断っておくが、私はもともと強靭な精神力を持っているわけではない。
若い頃には人並みにあれこれ悩んだ。
たぶん世の中には、生まれながらにして能天気な人は存在する。
過酷な状況を耐え忍ぶ、鋼のようなメンタルの持ち主に出会ったこともある。
だが、少なくとも私はそういう人間ではない。
極度に悩みやすいわけではないが、別にすごく心が強いわけでもないのだ。
面倒なことがあれば嫌だなと感じるし、やせ我慢ができる辛抱強さもない。
イチかバチかの勝負に打って出るような度胸もない。
つまり、心はまったくの凡人である。
凡人の心を持った私が、なぜいまに至るまで悩まないでこられたのか?
それは、私が「悩まない人の考え方」をインストールしているからだ。
世の中には「悩まない人」=「メンタルが強い人」または「ポジティブ思考な人」という誤解が蔓延している。
しかし、悩むかどうかと、メンタルの強さ(メンタルタフネス)、ポジティブ思考は関係がない。
違いは、「悩まないスキル」を持っているかどうかだけだ。
日頃から悩みがちな人、まさにいま何かに悩んでいる人は、「性格を変えなければ……」「もっとメンタルを鍛えなければ……」と思う必要は一切ない。
「悩まない人の考え方」をインストールすれば、だれでも一瞬で「悩まない人」になれるからだ。
「成功しても悩みが消えない人」の共通点
仕事や人生がうまくいく人は、たいていこの考え方を身につけている。
彼らは「うまくいっているから悩まない」のでは決してない。
「悩むことに時間を費やさないから、いつでも物事をうまく進められる」のだ。
逆に、たとえどれだけ優秀で努力を惜しまない人でも、「悩まない人の考え方」を身につけていないと、成果や成長は長続きしない。
必ずどこかで行き詰まるタイミングがやってくる。
ひとたびつまずくと、そこから立ち直れなくなり、悩みの沼にはまり込んでしまう。その結果、心身に不調をきたす人もいる。
だからこそ「悩まない人の考え方」は、何よりも優先して身につけるべき、最もエッセンシャルなスキルである。
どんなに頭がよくて勤勉で、圧倒的な実績があって、周囲に好かれるような人間性を持っていても、この考え方を蔑ろにしている人は、遅かれ早かれ苦労する。
私は立場上、自社の社員はもちろん、同業者や経営者仲間からも、よく悩み相談を受ける。
その経験からすると、悩みが多いかどうかは、うまくいっているかどうかとほぼ相関性がない。
ずっと成績トップを誇っていた人が、あるとき2位に転落し、夜も眠れないほど悩んでいる。
一方で、同じ職場で成績最下位の人が、平然とその隣に座っている。
場合によっては、最下位から1つ順位が上がっただけで、大はしゃぎしていたりする。
私の知人である経営者も「収入が減った……」と、ひどく落ち込んでいた。
話を聞けば、前年に6億円だった役員報酬がその年から5億円になったらしい。
たしかに1億円の落差は大きいが、ふつうの感覚からすれば年収5億円でも十分にすごい。しかも、彼の会社の業績は堅調で、まだまだ伸びていく可能性すらある。
何も心配することはないのだ。
なのに当人は、この世の終わりみたいな顔をしている。
「悩む/悩まない」の違いは、メンタルの強さや能力、社会的評価とは関係がない。
悩みの原因はあくまでも、その人の「考え方のクセ(思考アルゴリズム)」にあるからだ。
「借金5億円でも動じない人」の脳内で起きていること
「信じられない。さすがに5億円もらえれば、たいていの悩みは解消するのでは……?」
「成績2位でも十分にすごいのに……」
そう感じる人も少なくないだろう。
しかし、思考アルゴリズムを変えない限り、どれだけすごい結果を出して何億円という収入を手にしても、人はいくらでも悩めてしまう。
数十年にわたってさまざまな人たちとつきあってきた経験から、私はそう断言できる。
一方、借金が5億円もあるのに、まったくへっちゃらな起業家の知人もいる。
彼は休日に上機嫌でゴルフを楽しんでいて、まったく深刻そうな様子はない。いつもニコニコしていて、莫大な借金を抱えている人にはとても見えないのだ。
他人からお金を借りたことがない私からすると、「いや、もうちょっと悩めよ!」とツッコミを入れたくなるくらいだ。
とはいえ、借金5億円の彼が楽しそうに暮らしているのを見ても、私はそんなに驚かない。
「彼がなぜ悩まずにいられるか」が私には手に取るようにわかるからだ。
彼は、決してやせ我慢をしているわけでも、極度にポジティブ(というか無神経?)だったりするわけでもない。
悩みをうまく回避する「考え方のクセ」を身につけているだけなのだ。
私は学生時代から、この起業家と同じような人たちとたくさん交流してきた。
そのおかげで、かなり早い段階で「悩まない人の思考アルゴリズム」の秘密に気づくことができた。
悩みから自由になるうえで、「いま現在、どういう状況にあるか」は関係ない。
変えるのは「考え方」だけでいいのだ。
「悩まない人の考え方」を体得すれば、どんな窮地も乗り切れるようになる。
もしも何か問題にぶつかったとしても、ウジウジ悩んだりすることなく、次の一歩を踏み出すことができる。
「行動がすべてを解決する」に騙されてはいけない
とはいえ、私は暑苦しいポジティブ思考を押しつけるつもりはない。
「どんなときも前向きがいちばん!」
「考え込んでいないでまず動いてみよう!」
そういった空虚な励ましを期待している人は、この本を読まないほうがいい。
世の中の自己啓発書やオンラインサロンなどには、そんなメッセージがあふれている。
それらに勇気づけられ、「えいや!」でアクションを起こした人もいるはずだ。
しかし、その人たちの多くは、思いどおりにいかなくて行き詰まったり、手ひどく失敗したりしただろう。
その結果、元どおりの「ウジウジと悩む自分」に引きこもっているかもしれない。
本書が目指すのは、そういう「無謀さ」とは真逆の状態である。
考えることを放棄して、でたらめな行動に打って出ても、悩みはなくならない。
あらゆる悩みは「思考不足」からきているからだ。
問題に心を奪われ思考が停止したとき、人は悩み始める。
だからこそ、これに対処する方法はただ1つ──「考え続ける」ことである。
もはや悩む必要がなくなるまで、問題に向き合い、考えを突き詰めていく──それをあきらめなければ、人は悩まずにすむ。
変わるときは「一瞬」。時間はかからない
「いや、真剣に考えました。それでも答えが出ないから、悩んでるんです!」
「悩みとは思考停止の状態だ」と話すと、こう言って怒り出す人がいる。
悩みを乗り越えるには「考えること」が不可欠だ。
しかし、そのためにはひたすらウンウンとって、脳内でぐるぐると考えを巡らせばいいわけではない。
むしろ、世の中ではそんな状態を「悩み」と呼んでいる。
そういう人は「考え方」をわかっていないのだ。
物事を考えるときには、一定の「手順」や「型」を意識するべきだ。
悩みにはまり込んでしまう人は、いつもそのステップを飛ばしたり誤ったりしている。
ぜひ本書を通じて「悩まない人の思考アルゴリズム」をインストールしてほしい。
といっても、そんなに難しい話ではないので安心してほしい。
本質はきわめてシンプルだし、時間のかかるトレーニングも必要ない。
すでに述べたとおり、私自身もかつては人並みに悩みを抱え、ウジウジと考えて身動きが取れなくなるふつうの若者だった。
そんな私が「悩まない人」に変わったときのことはいまでも忘れない。
ある人の言葉を耳にしただけで、パチッと脳内のスイッチが切り替わったのだ。
その間、わずか1分ほど──。
私はその瞬間から「悩まない人」に変身できた。
本書を読む人も、変わるときはきっと「一瞬」だろう。
しかし、その効果は一生モノだ。
人生の限られた時間を「悩むこと」に浪費するのをやめたい人、もっと楽しいこと・夢中になれることに全力を注ぎたい人は、ぜひ本書をめくってほしい。
この本を読み終えたときには「この先、何があっても悩まない人」に変わっていることをお約束しよう。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)