業界トップクラスの医療機器商社、(株)ホクシンメディカル(神戸市)が事業停止状態に陥り4月25日、行き詰まった。負債総額は112億4334万円(2023年3月期決算)に及ぶ。今年3月に創業者の代表(以下創業者)が死去してからわずかひと月あまりの出来事だった。順調な経営と思われていた同社だったが、取引先への支払い遅延の発生から銀行取引停止に追い込まれ、混乱が続いた。突然の破綻に、元従業員は「社内外へ(状況を知らせる)文書が一切なく、何が起きているかのわからない」と困惑する。金融機関の担当者も、「この規模の企業で、代表の死去でここまでの事態に陥ることは考えにくい」といぶかしがる。ホクシンメディカルに一体何が起こっていたのか――。(東京商工リサーチ情報部 本間浩介)
株式上場も視野の急成長と
「20億円の簿外債務」の不審情報
ホクシンメディカルは1986年10月創業で、心臓外科や循環器内科向け医療機器・消耗品を扱っていた。1991年3月期に約7億5000万円だった売上高は、各地に営業拠点を開設して拡大し、2004年3月期は約105億6400万円と100億円を突破し、ピークの2022年3月期は410億3238万円に達した。特に関西地区では業界の有力企業と目され、株式上場も視野に入れていたと言われる。
だが、そんな評価の一方で、最近は別の側面も垣間見えていた。財務面での芳しくない風評が飛び交い、東京商工リサーチ(TSR)のデータベースには、2023年2月に「20億円の簿外債務の噂」との情報が登録されている。
こうしたなか、今年3月に創業者が死去したことで事態が一変する。創業者はホクシンメディカル株式の大部分を保有していた。企業統治(コーポレートガバナンス)が外部の目に晒されにくい非上場企業では、誰がどのように今後を取り仕切るかが大きなポイントになる。
代表が死去した当日、取締役が新代表に就任したが、わずか数日後に辞任、代わって創業者と同姓のX氏の新代表就任が同社ホームページ(HP)に掲載された。ところが、X氏が代表に就任して間もなく、取引先への支払い遅延が起きた。そして、取引先がホクシンメディカルに説明を求めても納得できる回答がないまま、4月に入ると本社が閉鎖された。