世の中には「何をやっても悩みやすい人」と「何をやっても悩まない人」がいる。この違いは一体何だろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。

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一喜一憂の精神状態

 Eさんは100日で「1000万円の売上」をつくらないといけない。

 そこで、彼女はaという戦略を立てた。
 このやり方なら、1日あたり10万円の売上が見込めるので、100日後には売上1000万円を達成できる。

 戦略aを実行に移したところ、早くも初日に12万円の売上となった。
 Eさんは大喜びして、この調子なら100日後に目標を大きく超えるだろうと思った。

 ところが、2日目には数字が9万円に落ち込む。
 彼女は首を傾げながらも、それくらいは誤差の範囲内だろうと考えた。

 しかし、翌日からは低調が続く。
 初日と同じやり方をしているにもかかわらず、3日目は7万円、4日目は8万円、5日目は6万円。
 この時点で1日平均8.4万円しか売れていないので、このままだと1000万円の達成は危ぶまれる状況だ。

 6日目、Eさんは何をしたか?

 何もしなかったのだ。
 戦略aが思いどおりいってくれることに賭け、粛々と同じことをやり続けた。

 1日の終わりに売上が10万円を超えていなければ「今日もダメだった……」と落胆し、「明日こそはうまくいきますように!」と神頼みをする。

 ごく稀に10万円を超えている日があると、「やった! 思いが通じた! 明日もうまくいくといいなぁ」と少しだけホッとする。
 まさに一喜一憂の精神状態だ。

 しかし、全体の数字が上がらないので、いつも気が気でない。
 食事もおいしくないし、夜もなんだか寝つきが悪い。家族とすごしていても、どこかうわの空で、疲れが取れなくなってしまった。

 そして100日後──。
 彼女は1日もサボることなく、仕事をやり続けた。
 しかし、総売上は680万円……。
 目標の1000万円を大きく下回る結果となり、彼女はかなり落ち込んでしまった。

 Eさんはいったいどうすればよかったのだろうか?

なぜ、悩む人ほど「神風」を期待するのか

 一定の目標を達成したいとき、人は「こうやって実現しよう」という戦略を立てる。

 特にビジネス上の目標の場合、戦略性は欠かせない。
 多くの人は「どうすれば目標を達成できるか?」にあれこれ知恵を絞り、一定のプランを立案していく。

 戦略が大事なのはビジネスだけではない。
 旅行するときには道順を決めたり所要時間を見積もったりするし、テストに合格したい人は学習計画を立てたりする。

「悩みやすい人」と「悩まない人」とでは、戦略に対する向き合い方が大きく異なっている。

「悩みやすい人」によく見られるのが、目標達成の方法を決めた瞬間、それを「実行すること自体」が目的になってしまうパターンである。

「あらかじめ決めたこと」を「あらかじめ決めたやり方」でやり抜くことだけに意識が行ってしまい、 どれだけ目標達成に近づいているかが忘れ去られてしまう。

 こういった思考グセが染みついている組織やチームでは、「決めたことをきちんとやっているか」だけをマネジャーが管理しようとする。

「どうだ? ちゃんとやっているか?」
「はい、作戦どおり抜かりなくやっています!」
 といった調子だ。

 いくら計画どおり実行していても、そもそもの戦略が見込どおりの成果を上げていなければ、目標は達成できない。
 そのまま失敗に向かって突き進んでいくだけである。

 しかし、途中でみんなが「(あ、このやり方はうまくいかないかも……)」と内心うっすら気づいていても、最初に決めたことを最後まで遂行しようとする。

「(運がよければここから逆転できるかも……)」「(なんとかうまくいってくれ~!)」などまったく非合理な期待や希望を持ちながら、ただ同じことを「がんばって」しまうのだ。

 こういうときに、「このままだとうまくいかないと思うんだけど、どうしますか?」と私が聞くと、「あきらめずにがんばります!」「うまくいくと信じています!」と答える人がいる。
 これは単なる精神論としてもかなり稚拙きわまりない。

 いままでと同じ行動を取っておきながら、いままでと違う結果を期待する──これほど理不尽なことがあるだろうか?

 本人としては「がんばっている」つもりなのだが、その状況を抜け出すために何かやっているわけではない。
 ただ「天に運を任せ、祈っているだけ」。
 思いどおりにいくかどうかが外部環境次第なので、状況が変わるたびに心が揺さぶられることになる。

 これがメンタルには相当な負担になる。
 神風が吹くことを期待している限り、いつまでも悩み続けることになるのである。

“一点買い”ギャンブラーの危険性

 では、「悩まない人」は、戦略とどう向き合っているのか?
 ここには大きく2つの要素がある。

① 達成確率100%の戦略づくり
② 最終目的から逆算した戦略改善

 まず「①達成確率100%の戦略づくり」について見ていこう。

「悩まない人」は、最初に決めた戦略には「うまくいく保証」がどこにもないことを知っている。

 そこでどうするか。
 合計の達成確率が100%になるよう、複数の戦略を用意するのである。

 たとえば、戦略aがうまくいく確率が50%としよう(この見積りは感覚値でOK)。

 ふつうの人はこの1つの戦略だけを握りしめて実行フェーズに入り、「うまくいきますように」と祈ってしまう。

 しかし「悩まない人」は、戦略づくりの段階で「うまくいかない確率50%」を補完するべく、さらに2つの戦略b・cを用意しておく。
 それぞれの達成確率は次のとおりだ。

・戦略a──達成確率50%
・戦略b──達成確率30%
・戦略c──達成確率20%

 こうして達成確率合計100%分の戦略を3つ用意することで、戦略aがうまくいかなければ戦略bに、戦略bがうまくいかなければ、戦略cに切り替えられる状態をつくり、目標を「絶対達成できる」状況をつくるのである。

 ちなみに、戦略aが失敗したときには戦略bに移行すると同時に、並行して不足した成功確率50%分の戦略dを考えて補充し、100%を維持する。

 1個で50%のものができればベストだが、成功確率25%のものを2つでもいい(戦略dとe)。

 最初から戦略aしかなければ、aがダメなときは完全に止まり、次の戦略を考えることになるが、このやり方だと、戦略bをやりながら戦略dとeを考えるので動きが止まらない。

 そうこうしているうちに、戦略bとcが成功してしまえばdとeの戦略は今回は不要になるが、次の目標達成に向けての戦略立案時に使える貴重なタネになる。

 戦略をつくる段階で、この考え方ができている人は、実行フェーズに入ってからも悩むことはない。
 この戦略には「祈る」余地がどこにもないからだ。

 悩む人ほど、1つの戦略だけを「一点買い」して、それが当たるように神頼みモードに入ってしまう。

 もちろん、その運頼みのギャンブルが、たまたまうまくいくこともある。だが、次も「当たり」を引き当てられる保証はない。

最初の戦略を握りしめ、「玉砕」する人、しない人

「達成確率100%の戦略」といっても、しょせん「計画」である。
 未来のことはだれにもわからないので、思いどおりの成果が出ないことは十分ある。

 とはいえ、Eさんのように「何もしないこと=祈りながら同じ戦略にしがみつくこと」を選ぶのは、「目標達成」という面でも「悩まない」という面でも望ましくない。

 ここで必要となるのが「②最終目的から逆算した戦略改善」である。

 つまり、戦略を実行していきながら、その都度、目標に近づいているかをチェックし、それが思いどおりに進んでいなければ、途中で戦略を改めていくのである。

 戦略を見直すタイミングは早ければ早いほどいいし、かなり細かいサイクルで見直してもいい。

 極端な話、Eさんも1日1回ペースで戦略改善していけば、99回の戦略見直しができたはずである。

 戦略の「改善」といっても、中途半端な微調整は避けたほうがいい。
 いったん戦略の遂行を完全に取りやめ、ゼロから別の戦略をつくり直すべきである。

 少なくともいまの戦略ではうまくいかないことがわかっているなら、いままでの延長線上で考えてはいけない。
 また、これまで戦略の準備に要したコストが無駄になっても気にしてはいけない。

「悩まない人」の時間配分はどうなっている?

「悩まない人」は、「これではうまくいかなそうだ」と感じた瞬間、迷わず手を止め、新しい複数の戦略をつくろうとする。

「決められた戦略を決められたとおりにやること」はまったく重要ではなく、あくまでも「目標達成」がすべてに優先することを忘れていないからである。

 多くの人は目標達成に向けて「戦略の策定」という思考活動に1%、戦略の実行に99%の時間を使っている。
「悩まない人」は「戦略の策定・見直し」という思考活動に30%、戦略の実行に70%の時間配分で取り組んでいる。

 もちろん、どんなことにも「やってみないとわからない要素」はある。
 しかし、考えることをあきらめなければ、未来の大部分はコントロールできる。

 私の実感では、ビジネスの世界で「思考が及ばない範囲」は3割程度。逆にいうと、残りの7割は思考でカバーできる。
「祈り」の対象をできる限り少なくし、「思考」や「行動」の領域を広げていこう。

(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)