「お客様を感動させるために必要なものは、スキルではありません」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が『記憶に残る人になる』。ガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、ホテル時代の上司に言われた「感動を生むために必要なこと」について紹介します。
忙しいと、「当たり前」もままならなくなる
営業にかぎらず、ほとんどの仕事は「人と人とのコミュニケーション」です。
人として誠実な姿勢で相手と向き合うことで感動が生まれ、記憶に残り、信頼される存在になれます。
ですがお伝えしてきたように、感動は細やかな気遣いから生まれます。相手のことを知ろうとしたり手間をかけたりと、時間がかかります。
つまり忙しくなります。
そして忙しくなると、当たり前のことがついおろそかになってしまいます。当たり前を大切にし続けることは、その大切さに気づくことよりも、さらに難しいのです。
これだけ「感動が大事だ」とお伝えしてきた僕も、ホテル時代にはその心を忘れかけたことがありました。リッツ・カールトンに入社した当初、僕は「ここで働くからには、たくさんのお客様を感動させよう!」と息巻いていました。でも、いざ現場で働いてみると、難しいことばかりでした。
……とにかく忙しかったんです。
僕はお客様の「感動」に麻痺していた
開業して間もなかった東京のリッツ・カールトンは大盛況で、僕が配属されたバーラウンジも毎日朝から晩まで満席。時間制限が設けられるほどでした。
すると、口では「お客様を感動させる」と言っていても、頭の中は「次はアレやって、コレやって……」と段取りのことばかり。とてもではないですが、感動のことなんて考える暇がありませんでした。
気がつくと僕は、仕事をこなすだけで精一杯になっていました。
そんな状況でも、お客様のお誕生日やサプライズのご依頼はいただきます。それも、毎日のように……。ディナーのお皿を下げると、ご依頼主のお客様にこっそりとタイミングを確認して、ケーキのロウソクに火をつけ、テーブルにお出しする。お客様は「わー!」と目を輝かせて感動してくれます。
でも、今だから言える話ですが、僕のなかでは完全に流れ作業になっていました。ケーキを出しながらも、頭のなかは次の仕事の段取りでいっぱいだったんです。
仕事が忙しくなると、つい「こなす」ことで精一杯になります。
当時の僕を見たお客様は、きっと「この人、忙しそうだな」と感じていたと思います。たとえ忙しくても、お客様に「忙しそう」と感じさせたらプロ失格です。そんな状態で、感動なんてするわけがありません。
人を感動させたいなら、自分が感動する
リッツ・カールトンで忙殺されていた僕は、目の前の仕事やお客様にろくに向き合えていないにもかかわらず、「お客様を感動させたいんです!」「そのために、もっと成長しなくちゃいけないんです」と、当時の上司に話していました。
すると、上司からある質問が返ってきました。
「君は感動しているのか?」
この質問への僕の答えは、NOでした。
お客様を感動させられる人は、自分が感動している人だけだ。
上司はそう教えてくれました。忙しさのせいにして、僕はいちばん大切なことを忘れてしまっていたのだと気づきました。
そこで、あることを心掛けてみました。お客様へのサービス中は「後のことは考えない」ように意識したのです。すると、お客様との会話にも集中できて会話が楽しくなりました。当然、お客様との距離も近くなりますし、サプライズに喜んでくれると自分のことのように嬉しくなりました。
僕は感動を取り戻したのです。
(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』から一部抜粋した内容です。)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。