「ヒアリングだけしていても、お客様の本音は引き出せません」
そう語るのはアメリカン・エキスプレスの元営業である福島靖さん。世界的ホテルチェーンのリッツ・カールトンを経て、31歳でアメックスの法人営業になるも、当初は成績最下位に。そこで、リッツ・カールトンで磨いた「目の前の人の記憶に残る技術」を応用した独自の手法を実践したことで、わずか1年で紹介数が激増。社内で表彰されるほどの成績を出しました。
その福島さんの初の著書が記憶に残る人になるガツガツせずに信頼を得るための考え方が満載で、「本質的な内容にとても共感した!」「営業にかぎらず、人と向き合うすべての仕事に役立つと思う!」と話題。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、人の本音に引き出す方法について紹介します。

「あの人には、なぜか本音を話してしまう」と思われる人が心がけている「意外な姿勢」とは?Photo: Adobe Stock

人生を変えた「1冊の本」

 予想外の提案によって、人は初めて「自分の願望」に気づき、感動します。

 24歳のとき、僕の人生は「一冊の本」によって変わりました。

 18歳で上京した僕は、大学には進学せずにアルバイト生活を続け、当時の年齢のわりには稼いでいたため優越感すらありました。
 でも次第に同い年くらいの人たちがスーツを着て街中を歩き始めると、とてもカッコよく見え、「置いていかれた」と劣等感を抱くように。
 そこで「次はスーツを着る仕事をしたい!」と思い、24歳のとき、小さなコンサルティング会社から内定をもらいました。

 飲食店経験しかなく、名刺さえ持ったことのない僕は、「名刺交換くらい覚えなくては」と、マナーの本を買いに書店に行きました。すると、辺り一面に同じ本が平積みにされていました。
 
当時のリッツ・カールトン日本支社長である、高野登さんの著書『サービスを超える瞬間』です。

 飲食店界隈でも、リッツ・カールトンの東京進出は話題になっていました。

「どうせ、お辞儀の角度が何度とか、言葉遣いとか、そんな話だろ?」

 僕は斜にかまえながら雑にページをめくり、驚きました。想像とまるで違い、サービスの本質に迫った内容だったからです。

自分の「本当の願望」が映し出された

 リッツ・カールトンのことを知れば知るほど惹きこまれていきました。そして「ここまで真剣に接客をしていただろうか」と自問自答しました。
 立ち読みしたまま読破してしまった僕は、本を閉じた瞬間、こう思いました。

「リッツ・カールトンで働きたい!」

 自分が本当にしたいことが、ハッキリとわかったのです。
 それは、スーツを着てカッコよく街中を歩くことではない。「お客様を感動させる」ことなのだと。

 書店を出た僕は、就職が決まっていた会社に内定辞退の電話をかけました。まだリッツ・カールトンに入社できると決まったわけでもなく、無職になってしまうにもかかわらずです。そんなリスクすら些細に感じる願望が、一冊の本によって引き出されたのです。

 本には「接客は楽しい仕事だ!」「やらないと損をする!」なんて一言も書かれていませんでした。読み進めるうちに、そこに自分の姿が重なり、まるで鏡のように自分の願望が映し出されて、自分でも止めようがなくなったのです。

「聞く」よりも「伝える」

「言葉になっているニーズ」に応えるのは、サービスです。相手も気づいていない「潜在的なニーズ」に応えることこそホスピタリティです。

 ヒアリングしていても、お客様の心の奥に眠った願望は出てきません。自分の想いを語ったり、予想外のおもてなしや提案をしたり。こちらから積極的に働きかけることで、「そうだ、これを求めていたんだ」と、お客様自身が自分の願望に気づきます。
 そう、僕が1冊の本を読んで、自分の本当の願望に気づいたように。 

 お客様は商品やサービスを買って、感動するのではありません。提案の内容に、そして提案するあなたの真剣な姿に、感動するんです。
 そうして心が動いたから、行動が起こります。
 お客様自身が願望に気づいてから満たしていては、遅いのです。

 ニーズを聞き出すのではなく、ニーズに気づかせてあげる。
 お客様の心に隠れた願望を映し出す「鏡」に、あなたがなるのです。

(本稿は、書籍『記憶に残る人になる』から一部抜粋した内容です。)

福島 靖(ふくしま・やすし)
「福島靖事務所」代表
経営・営業コンサルティング、事業開発、講演、セミナー等を請け負う。地元の愛媛から18歳で上京。居酒屋店員やバーテンダーなどを経て、24歳でザ・リッツ・カールトン東京に入社。31歳でアメリカン・エキスプレス・インターナショナル・インコーポレイテッドに入社し、法人営業を担当。お客様の記憶に残ることを目指し、1年で紹介数が激増。社内表彰されるほどの成績となった。その後、全営業の上位5%にあたるシニア・セールス・プロフェッショナルになる。株式会社OpenSkyを経て、40歳で独立。『記憶に残る人になる』が初の著書となる。