高齢者住宅市場に新顔
玉石混交の「サ高住」

 橋田宏さん(仮名)が、熱を出して寝ている母に寄り添っていると、玄関のドアをたたく音がした。「まもなく先生が診察にいらっしゃいますので」。声をかけるスタッフに「ありがとう」と答えながら、「やっぱりここで暮らしてもらってよかった」と独りごちた。隣の妻がその言葉にうなずいた。

 この日、夫婦が週末を利用して大阪から首都圏の郊外に住む母を訪ねると、風邪をひいていた。母は元の自宅から程近いところにある「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)に住んでいた。

 月曜には仕事があるため大阪へ戻らなければならないが、ここには24時間体制で母を見守るスタッフがいる。何かあれば医師が駆け付ける。元の自宅だったら、89歳になる母を置いて大阪に帰るわけにはいかなかった。

 2人で暮らす両親が、数年越しの説得の末にサ高住へ引っ越したのは1年前のこと。それまで両親は自宅を離れたがらず、段差につまずいて事故が起きたりしないか、病気で倒れていないか、心配が付きまとった。

 母は食事の支度が難しくなっていた。弁当の宅配サービスを利用してみたが、父が「まずい」とはねのけた。食事や掃除を世話してくれる家政婦や訪問介護のヘルパーを頼むことも考えたが、自宅に他人が入ることは母が嫌がった。

 2011年の東日本大震災からしばらくたったある日、実家を訪ねると屋根に手が加えられていた。業者が訪ねてきて「このままでは危ない」としつこいので工事を頼んだのだという。高齢者を狙った悪質業者の仕業だろう。心配は頂点に達した。

居室の広い新築へ入居も
介護サービスに不満で転居

 首都圏に住む兄弟の家で同居することを提案したが、地元を離れたくない両親に断られてしまった。そこで、橋田さん夫婦と3人の兄弟は、有料老人ホームを見て回った。