三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第84回は、FXや住宅ローンに共通する「レバレッジ」の考え方を解説する。
住宅ローンだって「レバレッジ」
1000万円を元手にFX(外為証拠金取引)デビューを果たした主人公・財前孝史は、少ない資金で巨額取引ができるレバレッジ(てこ)の威力を知る。先輩からの「5倍に固定しろ」と言われた忠告を無視した財前は高レバレッジで巨額の損失を抱える。
FXのレバレッジは証拠金といういわば「手付け」を使って手元資金以上の取引ができる。この形態は株価指数先物や商品先物にも共通する。複雑そうで、突き詰めると仕組みは単純だ。
レバレッジを使った取引は、通貨や商品ではなく、価格変動そのものを取引していると考えれば良い。証拠金は売買代金ではなく、損失に備えたバッファーでしかない。
予想通りに利益が出れば証拠金は傷付かず、含み益も新たなバッファーに加わる。意に反して損失が出るとバッファーが減り、その「厚み」が規定を下回れば追加の証拠金、いわゆる追い証が必要になる。
高いレバレッジをかけていると、わずかな値動きでも証拠金が吹き飛んでしまう。値動きが急激で損失確定の取引(ロスカット)が遅れれば、最初に払い込んだ証拠金以上の借金を背負い込むケースもある。
ここまでの説明を読んで「レバレッジは自分と関係ない」と思った人もいるかもしれない。だが、そうとは限らない。実は多くの人は意識せずに広義のレバレッジを使っている。それは、借金だ。住宅や自動車のローンはもちろん、クレジットカードですら使いようによってはレバレッジの一種とみなせる。
住宅ローンは「普通の人」最大のチャンス
5000万円のマンションを頭金500万円で購入するとしよう。手元に物件価格の1割しか現金がないのにマンションが買えるのは、4500万円の住宅ローンが10倍のレバレッジとして働き、あなたの資金力をかさ上げしてくれるからだ。
住宅ローンが普通の人が活用できる最大のレバレッジのチャンスだ。抵当権の設定や団体信用生命保険といった仕組みに加え、そこで生活すること自体が信用を支え、あなたのレバレッジ能力を高めてくれる。過剰な借り入れはご法度だが、住宅ローンは個人が銀行から低利融資を受けてレバレッジを使える滅多にない機会だ。
月々の支払いに無理がなければ、住宅ローンを返済しながら資産形成に回すお金も捻出できるだろう。そこで肝心なのは、ローンを繰り上げ返済せず、借金と両建てで資産を作ること。住宅ローンは契約者が死ねばチャラになる。つまり万が一の時、借金は消えて、手元に資産が残る。
私自身、この考え方をベースに十数年前に頭金ゼロで中古マンションを買い、月々の返済は抑え、借金と両建てで積立投資をコツコツ続けてきた。お金に色はないから、住宅ローンのレバレッジを使って調達したお金を株式や債券に投資してきたと考えても良いだろう。ちなみに住宅ローンは変動金利型で、残高はまだたっぷり残っている。
金利が低ければ、自動車ローンも同じようにレバレッジを使う好機となるが、住宅ローンほどのメリットはない。クレジットカードは金利が高く、レバレッジ効果より重荷の方が大きい。テコを使って無理して欲しいものを買うのは賢明ではない。
一般に借金には良いイメージがない。だが、すべての借金が悪なわけではない。レバレッジという視点からは、これまでと違った借金の有効性が見えてくるのではないか。