職場には「すぐあきらめる人」と「絶対あきらめない人」がいる。一体、何が違うのだろう?
本連載では、ビジネスパーソンから経営者まで数多くの相談を受けている“悩み「解消」のスペシャリスト”、北の達人コーポレーション社長・木下勝寿氏が、悩まない人になるコツを紹介する。
いま「現実のビジネス現場において“根拠なきポジティブ”はただの現実逃避、“鋼のメンタル”とはただの鈍感人間。ビジネス現場での悩み解消法は『思考アルゴリズム』だ」と言い切る木下氏の最新刊『「悩まない人」の考え方 ── 1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』が話題となっている。本稿では、「出来事、仕事、他者の悩みの9割を消し去るスーパー思考フォーマット」という本書から一部を抜粋・編集してお届けする。
「悩まない人」は「経験が必要だ」という思い込みから自由だ。
実際、余計な思い込みにとらわれているベテランより、何も学んでいない新人のほうが成果が出やすい場合がある。
とはいえ、新人ならば絶対に成功できるかというと、もちろんそんなことはない。
仕事にしても人生にしても、一定の経験や知識は武器になりうる。
問題はそれらが「重し=先入観」になることをどう防ぐかである。
「最も成長から遠い人」の特徴
「経験のある/なし」と「先入観のある/なし」の2軸で考えると、だいたい次の4タイプに分けられる。
② 素直なルーキー ── 経験がないので、先入観が入らない
③ 凝り固まったベテラン ── 経験があるせいで、先入観が入っている
④ 偏見まみれの素人 ── 経験がないくせに、先入観が入っている
この中でいちばん優秀なのは、経験があるけれど、先入観が入らない人(①エース人材)だ。
職場で圧倒的に活躍できる人は、まるで新人のようなフレッシュな目で物事を見つめられる。
しかも、数々の経験を積み、さまざまな知識・情報を吸収し続けているので、安定した高パフォーマンスを上げられるのだ。
次に成果を上げやすいのが、経験・先入観がない新人(②素直なルーキー)である。
そして、一定の経験を積んでいろいろな前提にとらわれている人(③凝り固まったベテラン)は、どうしてもそれにかなわない。
いちばん仕事に向かないのは、そもそも大した経験も積んでいないのに、たまたま手にしたごくわずかな情報だけで先入観をつくり上げ、その中に閉じこもってしまう人(④偏見まみれの素人)である。
この特徴は、いわゆる陰謀論やSNSのデマを信じ込む人にもそのまま当てはまる。
ひとたび思い込みや迷信にはまり込むと、いくらそれを否定する情報を提示されても、一切受けつけようとしない点もそっくり同じだ。
このタイプは問題が起きるたびに「他責モード」になるので、なかなか成長の機会が得られない。
■「他人の経験」をたくさん摂取する
──先入観が入らない体質のつくり方①
人間の先入観は、何かを経験し、学ぶことから生まれる。
しかし、だからといって、経験したり学んだりすることをやめてはいけない。
重要なのは「情報を取り込んでも先入観が生まれない体質」をつくることだ。
そのためには3つの方法がある。
①「他人の経験」をたくさん摂取する
②「常識」を真に受けない
③「二流の情報」を入れない
まず1つ目について見ていこう。
先入観とは、経験や知識に基づき「自分なりの答え」を一度決めてしまい、そこで立ち止まっている状態にほかならない。
それ以上の情報が一切入ってこなくなるので、「答え」が更新されなくなっている。
一方、先入観を克服できる人は、手持ちの情報をベースに、いったん「その時点での答え」は導き出してはいるものの、あくまでも「暫定解」でしかないと考えている。
だから、10の情報を持っている時点では「Aが正しい」と判断していても、その後に90の情報を得て、トータル100の情報の中から考え直し、「Aはまったく正しくなかった。Bが正しい」と結論づけることができる。
さらにその後、900を学んで1000の情報をもとに判断すると、「結局、Cが正しかった」と答えが修正されている可能性もある。
「どんな答えも暫定解であり、修正の余地がある」という思考アルゴリズムを持っている人は、常に新しいことを学び続けようとする。
新たな情報をつけ加えることで、自分なりの結論をどんどん薄めて「相対視」しているのだ。
逆に、先入観が強い人は、一度学んだことを「絶対視」してしまう。
ビジネスの現場でも、一回でもうまくいったやり方があると、「これが正解」と思い込んでしまう。
もっとベターな方法が世の中ではとっくに出回っているのに、それに気づかないまま古いやり方にしがみつく。
かつてドイツの宰相ビスマルク(1815~1898)は「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と語った。
この言葉どおり、先入観にとらわれがちな人は「自分の経験」だけから学ぼうとする。
逆に、思い込みの罠にはまらない人は、自分が経験したことは大事にしながらも、「歴史(他者の経験)」からの情報収集をやめない。
その意味では、「情報のせいで」先入観が生まれるわけではない。
そうではなく、「情報量が中途半端なせいで」先入観が生まれるのだ。
自分の経験したことだけですべてを知った気になっているから、無意識的な前提に縛られ、どんどん悩みやすい体質になっていく。
これを防ぐには、とにかく情報(=他人が経験していること)をインプットし続けることに尽きる。
このとき、観察すべき人は「自分より成功している人」がいい。
「自分より成功している人は、まだまだたくさんいる」という自覚があれば、学びをやめることはなくなるからである。
「いまの自分はまあまあすごいのかも……」と思った途端、その人は先入観の檻に閉じこもり、成長を止めてしまう。
「自分のやり方がいちばん正しい」と考えず、常に「自分よりうまくいくやり方」を探し続けよう。
「常識」を真に受けない──先入観が入らない体質のつくり方②
また、「常識」を真に受けないことも大切である。
よく先入観を取り除く方法として「何ごとも疑え」といわれるが、「疑うこと」と「真に受けないこと」はまったく違う。
「疑う人」は、出された食べ物を口に入れようとしない。
猜疑心を持ちながら、何か毒が入っているのではないかと、食べ物を細かく観察する。
一方、「真に受けない人」は、多くの人がそれを食べているなら、ひとまず口に入れてみる。
ただし、それを飲み込みはしない。
あくまでも「みんなはこれを食べているんだな」と思いながら口に含んでおき、もっとよさそうな食べ物が出てきたら、いつでも口の中のものを吐き出す用意がある(もちろん比喩である)。
たとえば、以前はダイエットといえば、カロリー制限が一般的だった。
ダイエット中の人はみんな食品に記載されたカロリー表示を気にして、1日の摂取カロリーが一定レベルを超えないよう必死で調整していた。
これが世の中の常識だったわけだ。
だから「やせるためには、高カロリーの肉を摂らないようにし、低カロリーなパンやごはんで我慢するべき」という話が「常識」としてまことしやかに語られていた。
みんながそれを当然のことと受け取り、だれも疑っていなかった。
だが、近年ではダイエットといえば、糖質制限が新たな「常識」となりつつある。
体重を落としたければ、糖質の摂取を控えたほうが圧倒的に効果が高いことが知れ渡っている。
パンやごはんは控え、肉を食べたほうが体重は確実に落ちる。
ダイエットですら、世の中の「常識」は平気で変わるし、意外とあっさりと覆される。きわめていい加減なものなのだ。
そのうち、「糖質制限も間違いだった」という時代がくるかもしれない。
だからといって、「すべての常識を疑え」と言っているわけではない。
ただ、常識を受け入れるときに、「そう信じている人が多いから、ひとまず受け入れつつも、新たな情報を注視していこう」というスタンスを忘れないほうがいいということだ。
ここでは、物事が客観的に正しいのかどうかという議論はしていない。
あくまでも先入観にとらわれないための知的態度として、「これは絶対に正しい」というスタンスを取らないほうが有益だということである。
どんな常識も、「絶対に正しい」わけでなく、「現時点では支持している人が比較的多い」ということにすぎない。
「北の達人」は北海道特産品のEC事業からスタートし、その後、健康食品・化粧品事業へドメインシフトした。
このとき私たちがまず決断したのが、「健康食品・化粧品の業界団体に入らない」ことだった。
「北の達人」は当時もいまも、「先入観や固定観念がないからこそつくれる商品」で成果を出してきた。
よって、あえて業界での接点を持たないほうが今後も強みを維持できると考えたのだ。
ヘタに業界団体に入り、業界の常識の影響を受けた結果、ふつうの商品しかつくれなくなるようでは元も子もない。
「二流の情報」を入れない──先入観が入らない体質のつくり方③
最後に大事なのは、「明らかに思考が狭まりそうな情報を入れない」ことである。
特に、自分が新参者の立場にあるときほど、「二流の常識」に毒されないよう気をつけたほうがいい。
まずは自分を「三流」に位置づけする。
三流の人が二流の情報を取り入れてしまうと、その後どうがんばっても二流にしかなれなくなる。
「二流の常識」が一流になることを妨げる先入観として作用するからだ。
一流を目指しているなら、最初から「一流の常識」だけに触れるべきだ。
わざわざ「二流の常識」を学ぶステップを挟む必要はない。
三流の人からすると、二流の人は自分より優秀に見える。
だから、ひとたび二流の人の情報に触れてしまうと、そのパワーに影響されやすい。だから、そもそも二流の人とはつきあいを避けるのがいちばんである。
また、あけすけなことを言うようだが、新参者に寄り添ってくる二流にろくな人はいない。
うまくいっている人は常に上を目指しているので、わざわざ下に降りてきて新参者の相手をしようとは思わないものだ。
学ぶなら、「一流の人」から学ぼう。
いくらがんばって二流の常識をコピーしても、せいぜい二流にしかなれない。
(本稿は『「悩まない人」の考え方──1日1つインストールする一生悩まない最強スキル30』の一部を抜粋・編集したものです)