ロレックスなどスイス企業の“根回し”で関税緩和?「トランプ氏のご機嫌とり」を拒否した気骨ある時計メーカーの実名ロレックス「Sky-Dweller」のゴールドモデル Photo:Bloomberg/gettyimages

トランプ関税がスイスの時計産業を瀕死に追い込んだことをご存じだろうか。ドナルド・トランプ米大統領は8月、スイスからの輸入品に対する関税を39%に引き上げた。これを受け、スイスの機械・電気産業界は「業界の存亡に関わる」と悲鳴を上げた。だが11月、この問題がようやく解決に向かい、日本と同じ15%に軽減されることが決まった。苦境を救う一助となったのは、ロレックスCEOなどによるトランプ大統領への直談判だったという。だが「トランプ詣で」を嫌い、交渉に加わらなかった気骨ある時計メーカーも存在する。(時計ジャーナリスト 渋谷ヤスヒト)

とばっちりで大打撃!
スイス時計業界を襲った「トランプ関税」

 日本ではほとんど報じられていないが、スイス時計産業は1年前から景気後退に見舞われていた。それに加えて2025年4月に、とんでもない「災厄」が降りかかった。アメリカのドナルド・トランプ大統領が就任直後、全世界に向かって一方的に宣言したトランプ関税である。

 スイス時間の4月2日に、1カ月の猶予付きで突き付けられた関税率は31%。ブルームバーグの報道によると、スイスは2024年にアメリカとの2国間貿易で、380億ドル(約5兆6000億円)という巨額の貿易黒字を叩き出していた。この金額は、米国の貿易赤字相手国としては13番目だという。

 とはいえ、米国のスイスに対する貿易赤字の要因は、ノバルティスやロシュといった製薬メーカーからの医薬品の大量輸入である。本来、トランプ大統領が懲らしめたいのはスイスの製薬業界のはずだ。にもかかわらず、スイスの時計業界や工作機械メーカーはこの問題で八つ当たりされ、甚大な被害を受けることになった。

 トランプ大統領による関税率の発表が行われたとき、スイスのジュネーブではちょうど、年に1度の時計フェア「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ 2025」が始まった翌日だった。発表を境に、前日まで笑顔だった時計ブランドのトップたちの表情は一変した。筆者はこの日以降、数社のCEOにインタビューする機会があり、業績の見通しを質問したが、答えは一様に「この状況では予測しようがない。わからない」というものだった。

ロレックスなどスイス企業の“根回し”で関税緩和?「トランプ氏のご機嫌とり」を拒否した気骨ある時計メーカーの実名「ウォッチズ・アンド・ワンダーズ 2025」のロレックスブース。大勢の参加者でごった返している(撮影:渋谷ヤスヒト)
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 関税率の発表当日、CEOたちは豪華な展示ブースの中から、一様に販売部門に大号令を出していたそうだ。「今月中に、可能な限りアメリカ向けの製品出荷を急げ!」と。その指示は忠実に遂行された。

 実際に、スイス時計産業の業界団体・スイス時計協会(略称FH)の統計によれば、4月のスイスからアメリカへの時計輸出額は前年度同月比でプラス149.2%(約2.5倍)に拡大。金額ベースでは25億スイスフラン(約4360億円)に急増した。