
「ノーベル平和賞を受賞したい」旨をSNSでも発信し続けているトランプ米大統領。彼にとってSNSは欠かせないツールだ。アカウントのフォロワー数が300万人超の「TikTok」も例外ではない。中国への情報漏えいリスクから、バイデン前政権はTikTok規制法を成立させたが、トランプ氏は覆してしまった。オラクル中心の米企業連合がTikTokの米国事業を約2兆円規模で買収する見込みだが、米中対立の火種は依然として残ったままだ。(多摩大学特別招聘教授 真壁昭夫)
トランプ氏がTikTokの利用継続に
こだわる“身勝手”な事情
米国と中国は9月15日、中国の「字節跳動」(バイトダンス)が運営する短編動画投稿アプリ、「TikTok」(ティックトック)の米事業売却の大枠に合意した。9月17日に米国内での利用禁止の期限が迫る中での発表だった。
その後、オラクルを中心とする、米国の企業連合(コンソーシアム)がTikTokを買収することが明らかになった。オラクルなどは、バイトダンスからアルゴリズムのライセンス供与を受けるという。
トランプ大統領は前政権と異なり、TikTokの利用継続にこだわってきた。その背景にはTikTokが、トランプ氏が支持固めに重視するSNSの一つだったことが挙げられる。米国経済にとっても、TikTokの影響は大きい。政治と経済の両方から、トランプ氏がTikTokを有効な手段の一つと考えたのだろう。
TikTokの最も重要なポイントはアルゴリズムにある。アルゴリズムとは、計算や推論の手順をいう。TikTokユーザーは、お薦めのコンテンツをタップするか、関心のあるキーワードを検索すると、後はシステムが勝手に、ユーザーの好みに合った動画を止めどなく流してくれる。
ただ、SNSとしての使い勝手が良い一方、ユーザーのデータが中国に流出するリスクは残る。今回の米中合意は、あくまでも売却とアルゴリズムの使用権の供与の大枠に関するものだ。トランプ氏が思ったようにTikTokをコントロールできないと、米国のユーザーの情報が中国サイドに流れることも懸念される。それが現実のものになると、データ主権分野でも米中が対立するリスクは高まるだろう。TikTokは、深刻な問題を抱えているといえる。