高市早苗首相高市早苗首相 Photo:Tomohiro Ohsumi/gettyimages

強い怒りを示しながらも
制裁措置には慎重な中国

 高市早苗首相が11月7日の国会答弁で、台湾有事が発生した場合、日本の集団的自衛権行使の前提となる「存立危機事態」に該当しうるとの認識を示した。

 この発言は従来の政府解釈や安保法制の枠内に収まるものであるにもかかわらず、中国政府は即座に批判して、その後、制裁の可能性を示しながら答弁の撤回を厳しく求めた。

 中国外交部はその後も、強烈な表現で何度も非難声明を発表し、日本産水産物の輸入停止や日本向け渡航の注意喚起を公告するなどの制裁措置をとりはじめた。

 11月18日に日中外務省の局長級協議が北京で行われた際、中国外交部の劉勁松アジア局長がポケットに手を突っ込み、険しい表情で日本外務省の金井正彰アジア大洋州局長に応対する映像が公開された。これは中国側が日本に対して高圧的に対応している演出をしたと考えられる。

 この件は「日本側が中国に説明しに出向いた」かのように印象づけるような報道があったが、実際は定期的に続いてきたものである。前回は6月に名古屋で行われている。今回の協議も、事前に調整されていたものであり、日本側が弁明に行ったかのように故意に印象操作していたとしたら、ジャーナリストの精神にもとる。

 注意すべきは、中国政府が激しい口調で制裁をちらつかせながら「答弁の撤回」を言い出したのは、大阪総領事が高市首相に対する暴言を投稿し、削除しても日本国内からの批判が集中したあとである点だ。

 これは、今回の中国政府の過剰な反応が、高市首相の答弁自体より、大阪総領事の暴言問題で「引っ込みがつかなくなったから」だと考えるべきだろう。

 ここで注視すべきは、中国側の政治的メッセージの強さに反して、制裁措置が限定的である点だ。日本経済全体の構造を揺るがすほどの金融制裁、レアアース禁輸、機械装置や半導体製造装置への規制、資本市場への制限などには踏み込んでおらず、日本企業や国全体への影響は限定的である。

 中国は強硬な言語を維持しながらも、日中関係を壊さないように制裁の適用範囲を慎重に抑えているように見える。

 なぜ中国は強い怒りを示しながらも、経済・外交上の行動では抑制を選んだのか。ここでは、その背景にある米中対立、日本の地政学的位置、中国国内政治、台湾問題の象徴性、そして中国経済の制約要因を分析し、高市答弁が中国に突きつけたものが何だったのかを考察する。