逆に、プレゼンの細かいテクニックを駆使して器用に話す人の内容には、決して心は動かされません。話し方は技術ではありますが、それだけではないことは必ず知っておくべきです。「話す」ということは、究極的には聴く人とのコミュニケーション、「対話」であるということです。その覚悟を持つことが、テクニック以上に大切なことなのです。

 日本人のプレゼンスキルの欠如については、子どものころから自分の意見を人前で発表するチャンスが少ない日本の教育に問題があることは事実でしょう。アメリカでは幼稚園児から「show and tell」(見せて語る)という形式で、クラスのみんなの前で発表する機会があります。生徒一人ひとりがある品物を持参し、クラス全員にその品物について語る、人前で発表する練習法の一つです。

 例えば、自分の一番大切にしているぬいぐるみや絵本を持参し、それが何なのか、どうして自分にとって大切なのかをプレゼンします。そうして説明の仕方や話し方について練習し、表現力を身につけていく教授法です。

 日本人は「話す」よりも、「読む」教育を受けて育っています。プレゼンでも講演でも、事前に書いた発表資料を「読む」スタイルになりがちです。実際には書かなくても、組み立てた内容を頭の中で「読む」という人は多いはずです。

 しかし、「話す」とは聴く人とのコミュニケーションです。「読む」はあくまで自分の考えを述べているだけで、対話になっていません。これでは聴く人の心を動かすようなプレゼンはとてもできませんし、一体感は生まれないでしょう。