iPodからiPhoneまで、アップル復活の舞台裏を知る「唯一の日本人経営者」が、アップル退社後に初めて語る「これからの世界」での働き方。これまで出会ったジョブズ、ラリー・エリソン、孫正義氏、柳井正氏らに共通するのは「猛烈な好奇心」だった。彼らはどんな「問い」を持ち、変化のエンジンとしているのか?

変化を生み出すのは、いつだって「猛烈な好奇心」だ

「ケンジ、キミには娘がいるんだろう。ボクも娘が生まれてずいぶんと生き方や価値観が変わった。娘さんにとって、パパがアップルとオラクル、どちらに勤めているほうがカッコいいだろうか?」

 茶目っ気たっぷりに話す笑顔は、嘘偽りもないという感じで、なんともチャーミング。いきなり緊張した場をリラックスさせてくれる。と同時に、彼の魅力にまいっている自分に気がつきました。

 2004年5月、私はカリフォルニア州にあるアップル本社の、当時CEOとして血気盛んだったスティーブ・ジョブズの部屋にいました。

 日本オラクルの専務として働いている私のところに、ある日「日本のセールス担当のバイスプレジデントとしてアップルに来てくれないか」というヘッドハンターからの誘いの連絡があったのです。

 日本IBMから始まり、日本ケイデンス、EMCジャパン、そして日本オラクルと、私がやってきた技術開発や営業、コンサルタント、マーケティングはすべて対企業向けのBtoBでした。一方、アップルはコンシューマーカンパニーを標榜し、BtoCの世界にばく進中。私は、電話の主に「人違いではないのか?」と尋ねたくらいです。でも、

「コンピュータ界の天才、スティーブと会えるのなら会ってみたい」

 正直、そんなミーハーな気持ちもあって、彼に会いに出向きました。最初の印象は、噂どおり、すごいオーラを感じました。