ノンフィクションライター・甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』が発売直後から注目を集めている。入居金が数億を超える「終の棲家」を取材し、富裕層の聖域に踏み込んだ渾身の一冊だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。
財政界の大物が入居する「終の棲家」
入居一時金が最も高い部屋で約4億7千万円――。
東京・世田谷区にある「サクラビア成城」は、全国屈指の超高級老人ホームとしてその名が知られている。
サクラビア成城の開業は1988年。日本がバブル景気に沸いていた頃だ。当時は「シルバー億ション」などと呼ばれ、その価格の高さと設備の豪華さがメディアでも話題になっていた。
既に廃刊になった「読売家庭経済新聞」に、開業前の1987年にサクラビア成城を取り上げた興味深い記事がある。
「レストラン、バー、サロン、ホール、図書室、美容室、ゲーム室など一流ホテル並みの施設が完備されている。まだある。医療スタッフが24時間体制で待機、フロントでは観劇、航空券などのチケットサービス、もちろん、CD(現金自動支払い機)も設置されている」(同年5月14日付)
当時、これだけを尽くしたシルバーマンションは皆無だったこともあり、バブルの象徴として驚きをもって伝えられていた。
ターゲットは「超富裕層」のみ
さらに、記事の中で当時の事業主体は、同紙の取材にこんなことも答えている。
「(想定する顧客は)入居費の3倍程度の資産をお持ちの方が対象ですね。3億円から10億円相当ですか。月々の生活費はご夫婦で80万円見当と見ております」
1987年頃の物価は現在より2割ほど安かったようだが、超富裕層にしか手が出ない高価格帯という意味では今と何ら変わりがないと言える。
サクラビア成城の事業主体の担当者は、記事の中でこうも述べている。
「当方の価格に驚かれる方はいらっしゃいません」
施設には値段以上の価値があるため、顧客は価格に納得しているという意味ともとれる。そして、こうした強気な価格設定は、現在のサクラビア成城にも受け継がれている。
今もなお、高価格を上回る価値というものが存在しているとすれば、その価値とは一体何であり、どのような点が「高級」を意味しているのだろうか。サクラビア成城の現在の事業主体へのインタビューを試みることにした。