入居一時金3億円超え、一握りの超富裕層だけが入居する、閉ざされた「終の棲家」……。元首相も入居していると言われる“超高級老人ホーム”が、近年注目を集めている。これらを徹底取材したのが、ノンフィクションライター甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。

インド産バイアグラでセックス三昧。施設スタッフと結婚した“やり手”入居者も。超高級老人ホームで繰り広げられるシニアの仰天恋愛事情いくつになっても「恋愛は人生の花」なのか?(Photo: Adobe Stock)

施設スタッフと結婚した
“やり手”入居者

「過去に、うちのフロント業務をしている女性スタッフと入居者の方が結婚しちゃったことがありましてね。今まで部下だった女性が、急にお客様という立場になったので驚きましたよ」

 そう話すのは高級をウリにした介護付き有料老人ホームを全国展開している企業の役員、小林豊氏(仮名)だ。彼の会社が運営する老人ホームでは、入居者の男女割合は2対1で圧倒的に女性のほうが多い。

 実は、全国的に見ても老人ホームは女性の入居者のほうが多いのが一般的だ。

 男女別の平均寿命の関係もあり、最初は夫婦で入居したものの、夫に先立たれてしまい一人で暮らすようになる女性も多くいる。

 それだけに、入居者同士が交際に発展するという話は、役員たちの耳にも届くことがあるそうだ。

「愛だとか恋だとかって話は、時々はありますね」

 そう小林氏が言うように、シニア同士の色恋沙汰はこれまでの取材でも聞いたことがある。例えば関東郊外にある大型高級老人ホームに住む会社経営者の男性の話だ。

インド産バイアグラで二股交際

 妻と別居状態のこの男性が一人で施設に入居したのは70代後半の頃。

 露天風呂やバー、プールも付き、レストランや部屋から見える自然豊かな景色がウリの、いわゆる高級老人ホームだ。

 入居者はやはり独身女性の割合が多い。他と同様に、地域や施設内でのサークル活動に参加したりして顔見知りになっていくと、自然とシニア同士のコミュニティーが形成される。

 ある日男性は、同じ施設に入っている同世代の独身女性から、財産の処分について相談を受けた。そのうちに意気投合し、女性を自室に誘い“深い仲”となったのであった。

 だが、その女性は大病を患っていたことが判明。今後のことを考えると、男性は急に荷が重くなったといい、自ら彼女を遠ざけるようになったそうだ。

 ちなみにこの男性、老人ホーム内で他の女性とも同時に交際していたという逸話も持つ。

 自室にはインド産バイアグラを常備していたことや、施設で口説いた高齢女性とのエピソードを周囲の男性に自慢げに話していたというから驚きだ。

 恋多き老人と見るか、ただの薄情な人物と見るかは人それぞれだが、いずれにしても男性にとっては、老人ホームが一つの出会いの場でもあった。

 この男性の例は極端だが、他にもこんなケースがある。

先立たれた者同士の純愛

「いろんなお話をするようになったきっかけは、彼が撮った写真だったんです」

 そう話すのは北関東に住む70代の女性だ。

 夫を亡くした後の寂しさを紛らわせるため、写真サークルに参加したときのこと。

 彼女は新しい出会いを求めているわけではなかったが、サークルでの活動を通じて、同じ70代の男性と出会ったという。

 彼もまた、数年前に妻を亡くしており、写真という新たな趣味を見つけ孤独を癒していた。

 ある日、サークルの活動中に男性が過去に撮影した一枚の写真が彼女の目に留まった。それは、公園のベンチに座る一人の老婦人の姿を捉えたものだった。女性の穏やかな表情がとても印象的だったという。

「写真を見せてもらったときに、奥さんに対する愛情みたいなものが伝わってきたんですよね」

 男性は、この写真を撮る際に亡くなった妻を思い出していたと彼女に語ったそうだ。彼の妻も、公園のベンチで静かな時間を過ごすのを好んでいたのだという。

 女性は、男性が妻へ抱く深い愛情と、彼女を失った悲しみを写真から感じ取ることができたと振り返った。

 二人は写真サークルを通じてお互いの過去を理解し合い、次第に友情を超え、感情的に支え合う関係へと発展していったという。

 それも一つの交際のかたちだろう。

 ただし、交際といっても精神的な繋がりだったと彼女は言った。二人は感情的な満足や安心感を求めていたのかもしれない。

 このように、超高級老人ホームを取材する中で高齢者同士の恋愛も頻繁に耳にした。

 確かに、人生の後期においても幸福を追求することは、人間の尊厳と生の質を高める重要な要素だ。

 天国の配偶者がどう思うかは別として、高齢者であっても恋愛感情を持つことは、きっと自然なことなのだろう。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。