スタッフはまるで「老舗ホテルマン」

 約束の時間の3分前にサクラビア成城の正面に着いた。

 事前にホームページで施設の概要は調べていたものの、ここが老人ホームだということは外観からは到底判断がつかない。

 建物はやや古いが、都内有数の一等地である世田谷区成城に約3000坪の敷地面積を有している。閑静な住宅街に佇む気品のある中規模マンションといった趣で、ベージュ色の外壁が落ち着いた雰囲気を醸し出していた。

 地下1階、地上10階の建物は、一般居室が約150室で定員は200名。それに一時介護室も数室設置されているという。

 取材当日、最上階にあるスカイラウンジの大きな窓の外には、富士山の姿が見えた。

「ここにご入居されている方は、オーナー経営者の方が多いですね」

 そう話すのはサクラビア成城の運営会社で取締役を務める松平健介氏(仮名)だ。短くまとめた髪型にパリッとした紺色のスーツをまとった姿は、老舗ホテルの支配人のようである。

「大きい居室は入居一時金が3億円を超えます。なので、5億円くらいのお金を自由に使える方が入られています。もちろん、ご自宅は置かれたままここに入られる。相当アッパーな方でないと、なかなかご入居できないかと思います

 開業当初も現在も、超富裕層のみを相手にしている点は変わらないようであった。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。