ノンフィクションライター・甚野博則氏による『ルポ 超高級老人ホーム』が発売直後から注目を集めている。入居金が数億を超える「終の棲家」を取材し、富裕層の聖域に踏み込んだ渾身の一冊だ。本記事では、発売前から話題となっている本書の出版を記念して、内容の一部を抜粋し再編集してお届けする。なお、本書では施設名を実名で記載している。
麻生太郎元首相の訪問も
福岡県は、民間企業が集計している「将来住みたいと思う都道府県」「住みやすい街」といった類のランキングで必ずと言っていいほど上位に食い込む常連県だ。
今回の取材先である「百道レジェンドハウス」(仮称)は空港から車で約20分、繁華街の天神からもバスで約20分という便利な場所にある。
百道レジェンドハウスの入居者へ取材を行うなかで、こんな裏話を聞いた。
「地元の大物財界人も入居しているため、以前、麻生太郎さんがSPを数人連れて、ここに来ていたのを何度か見たことがあります」
福岡の華麗なる一族に生まれた元首相は、地元の有名財界人である入居者に会いに来たという。超高級と呼ばれる老人ホームは、訪問客も一流だ。
大浴場や食堂は指定席
だが、そんな超高級老人ホーム内でも小さなトラブルは付きものだ。入居者からこんな話も耳にした。
「大浴場では暗黙の了解で定位置が決まっており、シャワーの水がかかったとかで喧嘩が起きたこともありますね」
「ダイニングの座席は古株の人が絶対ここに座るという場所があります。事情を知らない新しい入居者には、ダイニングのスタッフが気を利かせて無難な席に案内しているのを見ると、スタッフも大変だなと思いますよ」
高級と呼ばれる老人ホームでは食堂や大浴場を備えた施設が多く、“風呂友”から交友関係が広がっていくことも多い。
どちらも入居者同士が顔を合わせる場でもあるので、ちょっとしたトラブルが起きやすい場でもあるようだ。
社会の成功者、あるいは出世競争の勝者やその家族だけが1つのコロニーに集められた高級老人ホームでも、「金持ち喧嘩せず」とはいかないようだ。
(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の内容を抜粋・再編集したものです)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)がある。