『週刊ダイヤモンド』9月28日号の第1特集は「高成長&高給はどこ?DX180社図鑑」です。DX(デジタルトランスフォーメーション)が進まなければ、2025年以降に大きな経済損失が発生する、と経済産業省が予言した「2025年の崖」まであと1年。企業・国・自治体で今何が起こっているのでしょうか。そしてDX関連企業の業績や株価、次の注目企業は?豊富な独自データと独自情報満載でお届けします。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子、山本 輝)

編集部調査で判明!基幹システムトラブルを
抱えた大企業は他にも続々

 スーパーの店頭から日本人の国民食ともいえる「プッチンプリン」が消える──。江崎グリコを襲ったシステムトラブルは、8月まで基幹商品が数カ月という異例の長期間出荷停止となる事態に発展した。大手ERP(資源統合管理計画)システム、SAPの新規導入に伴うシステム移行による障害で主力商品群の出荷が止まり、2024年12月期決算の業績予測を下方修正するに至った。SAPへの移行プロジェクトによる障害でここまで長い間業務が止まるということは前代未聞だ。

「2025年の崖」まで1年、ニッポンのDXはどうなってる?グリコだけじゃない、基幹システム更新トラブルは社会問題に実は、基幹システムの移行に伴うトラブルは大手企業で数多く起きている。スーパーの店頭から「プッチンプリン」が消えたグリコの例は対岸の火事ではない(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 グリコはSAPの最新バージョンであるS/4HANAを既存のシステムに替わる新基幹システムとして導入していた。システム移行の主幹事はデロイト トーマツ コンサルティングが担当し、構築作業を複数のITベンダーが分担して行っていた。

 19年12月に22年12月までの予定で始まったプロジェクトだが、納期は1年以上延び、予算は215億円から342億円に膨らんだ。難産の新システムはようやく稼働したものの、目も当てられない事態となってしまったわけだ。

 実は、基幹システムの移行に伴うトラブルは大手企業で数多く起きている。グリコの例は対岸の火事ではない。

 基幹システムを更新することを「DX(デジタルトランスフォーメーション)」と位置付ける企業も多く、往々にして大型化するプロジェクトはITベンダーやコンサルティング会社にとっても太い飯の種となる。だが一方で、基幹システム更新はさまざまな面から非常に困難で、企業にとって重大なリスクをもたらすものになっている。

 基幹システム更新でつまずく企業は後を絶たない。ダイヤモンド編集部で上場企業の最近10年間の有価証券報告書を横断的に調査したところ、基幹システム更新が難航している企業がグリコ以外にも多く見つかった。

 例えば大東建託は、全国の賃貸オーナーの家賃管理を行う基幹システムの更新を行っている。20年前にメインフレーム上に作ったレガシーシステムをオープン化しようというもので、着手したのは13年。18年までに完了する予定だったが、工期が4回伸びた。現在の完成予定は25年と当初予定から7年延び、移行予算も当初の193億円から357億円にまで膨らんだ。

「いろいろなベンダーを入れたものの大きなデータの処理がうまくいかず移行が長引いた。家賃管理のシステムのトラブルは経営の根幹に関わるため、慎重に影響の少ないところから進めている」(大東建託)という。キユーピーやクボタも同じく工期と予算が伸びている。中には日本通運やKPPグループホールディングスのように、更新プロジェクトそのものを中止して減損処理を余儀なくされる企業すらある。

 基幹システム更新はなぜつまずくのか。

 下図に、基幹システム更新時に問題になるリスク要因をまとめた。システム更新を担当するSIer、顧客であるユーザー企業、システムの移行手段、導入するアプリケーション、そしてシステムの基盤であるインフラ面においても、ありとあらゆるレイヤーでリスク要因がある。

 全方位的なリスクを伴うのが基幹システム更新なのだが、その「大工事」が半強制的に多数の日本企業に求められる事態がここ数年続いている。それが、経済産業省が作ったバズワード「2025年の崖」のそもそもの発端にもなった、SAP2025年問題である。