国は2025年度末までに、自治体の20の業務をつかさどるITシステムの標準化を進めている。移行が刻一刻と迫る中、国の度重なる仕様変更などからプロジェクトは大幅に遅れている。ダイヤモンド編集部の情報公開請求により、その衝撃の内幕が明らかになった。関連するITベンダーも多いが、1700余りの市区町村を巻き込んだ巨大プロジェクトは今後どうなるのか。特集『DX180社図鑑』(全31回)の#11ではその内実を明らかにする。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
「25年度末に完全稼働できる自治体は全国どこにもないのでは」
編集部の情報公開請求で驚愕の事実が判明!
経済産業省が生んだバズワード、「2025年の崖」。本特集#1で紹介した「SAP基幹システム刷新」と並んで、文字通り「崖」から落ちそうなプロジェクトが、いま、2025年度末までの予定で全国の自治体で進行している。自治体業務をつかさどるITシステムの標準化と、ガバメントクラウド(ガバクラ)への移行である。
全国の市区町村で現在バラバラのITシステムを標準化し、さらにこれをクラウド化することで効率化を図るという方針の下、まずは戸籍や税関連など基幹となる20の業務システムを標準化。その後、政府指定のガバクラに乗り換えるというプロジェクトだ。デジタル庁が旗を振る中、約1700の市区町村が一斉に動く、いまだかつてない一大プロジェクトである。
現在自治体で使われている業務システムは、戸籍、住民票、国民健康保険、税など業務別のパッケージを、それぞれITベンダーが開発。それをSIer(システムインテグレーター)が各自治体向けに調整して組み込み、運用されてきた。
富士通、NEC、日立製作所といった大手ITベンダーのほか、戸籍システムで全国7割のシェアを持つ富士フイルムシステムサービスや、TKC、全国325自治体に100種類以上のシステムを導入しているRKKCS、両備システムズといった地方企業など、多数の多様な企業がここに関わる。
では、標準化作業は、そのような既存業者から新規の業者に乗り換えて行われるかといえば、そんなことはない。標準化の肝となる20の業務システムについて、自治体はパッケージ開発とSIを担当する2種類、計数十のベンダーを選定することになるが、基本的には前述の既存システムを担当してきたベンダーにほぼ全て任せることになりそうだ。
その20業務システムの標準化作業が終わった後に、ガバクラ事業者として指定された米アマゾン ウェブ サービス(AWS)、米マイクロソフト、米グーグル、日本オラクル、そして昨年から加わったさくらインターネットのいずれかのクラウドに移行される予定となっている。最初から入り込んでいたAWSの牙城を、日本オラクルやグーグルが価格攻勢で切り崩しにかかっている構図だ。
言い換えれば、最後に移行するクラウドの段階では、業者は5社に絞られているが、その手前のシステム開発では、これまでのように、多種多様な業者が存在しているのだ。
26年3月の移行を目指し、現在佳境にさしかかっている標準化作業だが、ベンダーや自治体関係者に取材を重ねると、のっぴきならない状況が見えてきた。
23年10月時点で、「標準化システムへの移行が難しいものがある」としてデジタル庁・総務省に届け出た自治体は全体の約1割、政令指定都市については全20都市だった。しかし「ここへきて大手ベンダーが次々と担当システムの移行困難を宣言している。全自治体の半数以上が移行困難になってもおかしくないのでは」と、デジタル広域推進機構代表理事で埼玉県戸田市デジタル戦略室長の大山水帆氏は言う。それどころか「25年度末までに全く無傷で無事にプロジェクトが終わる自治体はないのでは」と、複数の自治体のコンサルティング業務を行っているITコンサルタントの川口弘行氏は警鐘を鳴らす。
しかも、だ。非効率を改めコストを削減するのが、標準化の大きな目的の一つだったはずだが、なんと、「100年かかってもコストを回収できないのでは」と危ぶまれる事態に陥っているという。
一体何が起こっているのか。ダイヤモンド編集部は標準化プロセスの進捗状況について、プロジェクトの進捗を管理している総務省に情報公開請求を行った。そこから見えてきたのは、1741市区町村が持つ総数3万4820システムで進められる標準化作業が、証言を裏付けるかのように大幅に遅延している状況である。作業は40のプロセスのうち七つのポイントで締め切りが設けられているのだが、どこが、どれくらい遅れているのかを具体的な数値で示した、衝撃の内容を次ページから見ていこう。