「医療DX」を掲げて病院やクリニックでもDXが進む。中でも最大のものが、厚生労働省がスタートさせている電子カルテの標準化事業だ。これまで仕様がバラバラだった病院・クリニック向けの電子カルテを、データの融通が可能な形に置き換えるという大掛かりなもの。特集『DX180社図鑑』(全31回)の#18ではこの動きを取り上げる。厚労省が打ち出した強制力のある方針の影響で、電子カルテベンダーのビジネスモデルの一部は大きく変わることが必至となりそうだ。これまで高シェアを握ってきたベンダーはどうなるのか。また、患者の通院時の対応はどう変わるのか?(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
厚労省が電子カルテ共通化を強力に促進
25年「医療DX」でビジネスモデルが激変か
DX(デジタルトランスフォーメーション)を進めないと日本経済にさまざまな困難が起こるとされた「2025年の崖」。本特集でもSAPの更新問題#1、自治体システム標準化問題#11とさまざまな崖を取り上げてきたが、実は25年にもう一つ大きな動きが、全国の病院とクリニックで起ころうとしている。厚生労働省が旗を振る、医療DXがそれだ。
レセプト(診療報酬明細)や特定健診情報、予防接種記録、電子処方箋、電子カルテなどの医療・介護機関から出されるデータについて、クラウドなどを利用して自治体や他の病院・事業者、患者の間で必要なときに必要な情報を共有・交換できる全国的なプラットフォームができるのだ。以前は患者の立場からでは確認することができなかった、自らが受けた医療情報などを確認することもできるようになるという。このプラットフォーム作りの先行事業が25年3月からスタートするのだ。
これまで医療データは基本的には病院内で閉じていた。患者の既往歴や診療履歴などが必要なときに外部から参照できないことは、新型コロナウイルスの感染拡大期に大きな弊害をもたらした。この反省もあってか、「これまでの厚労省には考えられないほどスピーディーに、長年懸案になってきたことを変える勢いで全てが動いている。驚きだ」とある医療関係者は言う。
このプロジェクトは病院にとっての「基幹システム」ともいうべきITシステムである、電子カルテを大きく変えるものである。
電子カルテは現在、オンプレミス型(自社保有)、クラウド型が両方存在する。これまで、一定規模以上の病院に対しては約3割のシェアを持つ富士通をトップに、シーエスアイ、NEC、ソフトウェア・サービスなどがオンプレの電子カルテを導入していた。
一方、クリニックや診療所ではクラウド型の電子カルテの普及が急速に進み、全体の半数にまで達している。ここでは、エムスリーがトップ。元パナソニック・三洋電機系列のPHCホールディングス子会社のウィーメックスや、富士通、メドレーなどがその下に続く、という勢力図となっている。
電子カルテはITシステムとしては比較的シンプルな構造をしているといわれており、参入障壁は高くない。プラットフォーマーや圧倒的な寡占企業がいない、群雄割拠状態にある。
そして、これらの電子カルテは、違うベンダー間でデータの互換性がなく、規格も統一されていないバラバラの状態にあった。これが病院間でのデータ流通には大きな障害となってきたほか、導入する側の病院にとっても大きなデメリットとなってきていた。解決しなければならない懸案事項として長年取り沙汰されていたこの問題が、厚労省の進める医療DXで変わる可能性がある。医療系IT業界にとっては歴史的な節目ともいえる。
果たして医療DXで病院と患者がどう変わり、そしてベンダー間の勢力図はどう動くのか?厚労省が打ち出した強制力のある方針の影響で、電子カルテベンダーのビジネスモデルの一部は大きく変わることが必至となりそうだ。次ページから見ていこう。