ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。本稿では、発売後に寄せられた情報からさらに追加取材を重ね、超高級老人ホームの実態を描く。(取材・文:甚野博則、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)

「入居者は施設の言いなり」「約400万円のサロンも入会」…。入居金2億円超えの超高級老人ホームを退去した女性が語る後悔老人ホームを選ぶ際は設備よりもスタッフの雰囲気を見るべきだ(Photo: Adobe Stock)

入居金最大2億円超え
関西の“超高級老人ホーム”

「あそこの施設は福祉的な感覚をもった企業とは思えず、今では入居したことを後悔しています」

 そう話すのは、老人ホーム「インペリアルテラス関西(仮名)」の元入居者・財前圭子さん(仮名)だ。ここで彼女が見た光景は、誰もが羨むシニアライフとは程遠いものだった。

 小高い丘の上に建つインペリアルテラス関西は、老人ホームの中でも「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」と呼ばれ、介護・医療と連携して高齢者を支援するサービスを提供する住宅である。

 広大な敷地に建つインペリアルテラス関西が一般的な老人ホームと違うのは、親会社が富裕層向けのリゾート事業を展開していることや、開放的な住環境と高級感をウリにしていることだろう。

 吹き抜けの天井に広々としたロビー。見晴らしのよい大浴場からは街の夜景が一望できる。露天風呂やプール、大きな窓に囲まれたメインダイニングは、まるでリゾートホテルで優雅なひと時を過ごしているかのような気分に浸れるのが特徴だ。

 最も高額な部屋は入居一時金だけで2億円を超える。関西で有数の超高級老人ホームでの暮らしは、財前さんにとって優雅で安心なものになるはずだった。

 ところが――。財前さんは次第に施設に対して不信感を抱いていく。

面会後に“即日契約”

 財前さんが、インペリアルテラス関西に入居を決めたのは、今から約10年前のこと。

 資産家である彼女は独身だ。施設の近くで一人暮らしをしていたものの、大病を患い、どこか安心して住める“終の棲家”はないものかと考えていた。

 そんな時、財前さんの目に留まったのが、ある新聞広告だ。“全室南向き”というインペリアルテラス関西を紹介した広告に魅かれ、すぐに問い合わせの電話を入れた。

 後日、施設の営業担当者と面会して概要を聞き、その場ですぐに契約書を交わしたという。

「私の場合、入居一時金は億まではしない部屋を契約しました。入居一時金以外には、月々約13万円かかりますが、施設の近くに自宅がありましたので普段は自宅に住み、将来、身体が悪くなったらインペリアルテラス関西に住もうと考えていました」

 つまり将来のために部屋をキープしていたのだ。

 契約時、営業担当者から強く勧められたのが「インペリアルサロン」という会への入会だったという。