約400万円を追加して
“よくわからない”サロンへ

 インペリアルサロンとは、どういうものかと財前さんに聞くと、「介護棟への入居権です」と答えた。

「入会は任意となっていますが、事実上ほぼ強制されます。当時、サロンに入会していない居住者は私の周りには誰もいませんでしたから。サロンに入会すれば、介護棟に優先的に入れてもらえるのと、コンシェルジュサービスが受けられる。

 それにお葬式を特別価格であげることができ、葬儀会場の優待サービスなどもあると説明されました。それならということで、入会金400万円弱のサロンに入る手続きをしました」

 入居一時金を安く見せるためか、インペリアルテラス関西のホームページで表示されている金額にはサロンへの入会費用は含まれていないようだ。

「当時の営業担当者に、介護棟へ行った場合、月にどのくらい費用がかかるのか聞いたら、『30万円ちょっとあれば大丈夫です』と説明されました」

 そんな財前さんに、施設から契約書の内容について詳細な説明を受けたのかと聞いてみると、「そこまで細かくは」と話した。

 そもそも施設とはどんな契約を交わしたのか、賃貸契約なのか、介護棟ではどこまで介護をしてくれるのかなど、財前さんにさまざまな質問を投げかけたが、返ってきた答えの多くは曖昧だった。

 もちろん財前さんが施設側の説明を聞き逃していたということも考えられるが、営業担当者が丁寧な説明をせずに契約を結ばせた可能性も否定はできないだろう。

 ちなみに、この日、財前さんが介護棟を見学させてほしいと営業担当者に頼んだそうだが、「『今日は介護棟に人がいるから』と言って、見学させていただけなかったです」と付け加えた。

 それでも財前さんが同施設と契約したのは、親会社が世間でも知られた企業であるという安心感からだったようだ。

“不平等すぎる”契約内容

 即日契約した財前さんが、実際に入居したのは契約から約数年が経った頃。

「まず私が契約したときにいた職員さんのほとんどが退職や異動などで、誰も残っていませんでした。それから介護棟での月額費用が約10万円も値上げされるという話が持ち上がっていました。私は自宅に住んでいたので、値上げの話があったことなど全く聞いておらず、とても驚きました」

 入居後は、居住者同士の知り合いもでき情報交換をする機会が増えた。情報交換でわかったのは、入居一時金を割引された人がいるなど、人によって販売方法に差異があったことだ。

 また、会社は“人生100年時代でも健康を目指す”と掲げ、入居者に認知症予防のサプリメントの購入を無理やり勧誘された人もいると証言した。

介護棟で見た
“恐ろしすぎる”実態

 知り合いが増えた財前さんは、介護棟に移った知人を訪ねる機会が何度かあった。介護棟の内部を初めて見た彼女は、目を疑ったという。

「介護棟の知人が床にご飯を全部こぼしていても、放っておかれていたままでした。その後も介護棟に行く機会が何度かありましたが、すぐに面会はさせてもらえません。暫く待たされた後に居室へ行くと、職員数人が介護をしている雰囲気で、わざとらしいなと感じたこともありました」

 財前さんによれば、居住者同士でも施設の運営に疑問を抱いていた者は多いという。

 だが、施設に問題点や改善点を求めると、職員から露骨な嫌がらせを受けた居住者が過去にいたという。

 結局、平穏に暮らすためには、おとなしく施設側の言いなりになるしかないのだろうと嘆いた。

(本記事は、『ルポ 超高級老人ホーム』の著者による書下ろし記事です)

甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)がある。