「天才はいない。天才になる習慣があるだけだ」。
そう話すのは、インプットの最強技法と意識改革をまとめ、大手書店でベストセラーランキング上位にランクインしている書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信氏。
菅付氏は坂本龍一や篠山紀信などの天才たちと数々の仕事をこなし、下北沢B&Bでの<編集スパルタ塾>、渋谷パルコの<東京芸術中学>、博報堂の<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>や東北芸術工科大学でクリエイティヴについて教えている。
本連載ではその菅付氏に、クリエイティヴの本質についてさまざまな角度から語って頂く。第1回は、彼が「アウトプットの質と量はインプットの質と量が決める」と断言する、その理由について。(聞き手、文/ミアキス・梶塚美帆、構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

あなたはあなたがインプットしたものでできているPhoto: Adobe Stock

自分を賢くしないものを、
自分の目と耳と口に入れない

 僕は「生まれつきの天才はいない」と考えています。では、どうしたら天才に近づけるのかというと、精度の高いインプットを習慣化することです。

 英語には「You are what you eat」という慣用句があります。「あなたはあなたが食べたものでできている」という意味です。

 クリエイティヴに関してもまったく同じことが言えます。「あなたはあなたがインプットしたものでできている」ということです。

 つまり、あなたが天才になるためには、より良いインプットを行っていくしかありません。

 僕がこれまで出会ってきた多くの優れたクリエイターが実践していることを一言で表すとすると、次の言葉になります。

自分を賢くしないものを、自分の目と耳と口に入れない

 唖然とするほどシンプルな方法でしょう。

 情報の洪水に翻弄されず、自分を賢くするものだけを常に選び、身体に入れること。これはクリエイティヴ教育におけるもっとも重要なテーゼであり、僕が伝えたいことのコアになります。

 漫画の巨人、手塚治虫もこう言っていました。

「君たち、漫画から漫画の勉強をするのはやめなさい。一流の映画を見ろ、一流の音楽を聞け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め。そして、それから自分の世界を作れ」と。

アウトプットの質と量は、
インプットの質と量が決める

 やみくもに大量の知識や情報をインプットしても、優れたアウトプットを出すことはできません。もちろん天才にもなれません。

 アウトプットの質と量はインプットの質と量が決めるのです。

 まずすべきことは、インプットの質を上げることです。そのための選択の基準は、「いいもの」ではなく「すごいもの」を選ぶことです。

 では、「いい」と「すごい」の違いは何でしょうか?

 これは私の定義ですが、世に出たときに誰もが気持ちよく思えるようなものは「いい」ものであり、世に出たときに賛否は分かれますが、歴史にくさびを打つようなものが「すごい」ものだと考えます。

 この「いい」と「すごい」の差に敏感であること。そして「すごいもの」を的確に選び取ること。クリエイターに求められるのは、やはり選択眼だと思います。そこそこのものをインプットするのは、時間の無駄でしかありません。

「いい」と「すごい」の違いがまだよくわからない方のために、僕が選んだ「すごい映画」と「すごい音楽」を20ずつお教えしましょう。まずはこれらを観て、聴いてみてください。すごいものを選択しなければならない理由がわかると思います。

【観ていないとお話にならない、知的インプットとしての「映画ベスト20」】

【クリエイティヴ能力を上げたければ絶対聴くべき「音楽名盤ベスト20!」】

「そこそこ」を回避するためには、インプットするときに以下の問いを自分に投げかけてみるといいでしょう。

はたしてこれは自分を賢くしてくれるものなのか、否か」と。

クリエイターにとって「ラク」は「ダラク」

 拙著『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』に書いたようなハードな知的インプットを続けていないと、優れたアウトプットは生み出せません。日々のトレーニングをしていないと、クリエィティヴのための知力を維持することはできないのです。

 アウトプットのやり方は人によって大きく異なります。載せるメディア、クライアント、作業環境、そして時代やテクノロジーによっても激しく変化します。

 一方で、知的インプットのやり方は普遍です。質の良いものを選び、ハードにインプットし続けるというのは、一生有効なメソッドなのです。

 クリエイターにとって楽なことをやるのは堕落だと僕は思っています。ましてや天才にはなれません。つまりクリエイターにとって「ラクを選ぶのはダラクの始まり」です。

 クリエイティヴの世界で一流であり続けたいのであれば、覚悟を決め、インプット・ルーティンを実践するのです。ひたすらアタマを鍛錬していきましょう。

(本記事は『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』の著者・菅付雅信への特別インタビューをまとめたものです)

菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。