優れたアイデアや表現を生み出すための最強技法と意識改革をまとめた書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』(菅付雅信著)が刊行されました。
アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決める。もしあなたが「独創的な企画」や「人を動かすアイデア」、「クリエイティヴな作品」を生み出し続けたいのであれば、やるべきことはたった1つ。インプットの方法を変えよ!
この連載では同書内容から知的インプットの技法を順次紹介していきます。今回は、最強のインプットである「読書」について。

読書こそが最強の知的インプット法Photo: Adobe Stock

「本は頭のダンベル」論

 古今東西、さまざまなインプット法が語られてきているが、私は「読書」こそが最強のインプットであると考える。

 その最たる理由は、「常に頭に適度な負荷がかかる」ことだ。

 アスリートが日々筋トレによって筋力の増大をはかるのと同じように、日々言葉を頭の中で捉え直し、有機的に組み立てていくことによって、脳とそのイメージ力を活性化させていく。

 言うならば本は、頭のダンベルなのだ。

 肝は、負荷の高いダンベルが必要だということだろう。

 何十回も軽々持ち上げられるようなダンベルを持ち上げても筋力トレーニングにはならないように、読書も負荷が高くなければ頭のトレーニングにならない。

 京都大学客員准教授の故・瀧本哲史氏は『読書は格闘技』という著書において、「書籍を読むとは、単に受動的に読むのではなく、著者の語っていることに対して、『本当にそうなのか?』と疑い、反証する中で自分の考えを作っていくという知的プロセスでもある」と語っていたが、ダンベル的読書とは、まさに一冊一冊、目の前の本の負荷を確認しながら読んでいくようなイメージだ。

 読みやすくて楽しいだけの本は、頭のトレーニングではなく、単なる頭の休息である。

クリエイションを学ぶうえで必要な読書リスト

 もちろん、身体のトレーニングと同様に最初は比較的負荷の低いところから始めていき、少しずつ負荷を増やしていくことが、安全にかつ持続的に行っていくうえでは重要だろう。

 なので、最初は負荷を低く、そして慣れてきたら徐々に負荷を上げ、自信がついてきたらアマチュアがついていけないレベルで負荷をかける。それがプロのアスリートにも、プロのクリエイターにも必要な方法論だ。

 この負荷の高め方を維持できるかどうかが、プロとアマの分かれ道ではないかと思う。

 たとえば、『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』には、私が美大での講義「20世紀美術史」ならびに「総合芸術概論」にて学生に提示している「クリエイションを学ぶための100冊」というリストを掲載している。20世紀から21世紀の美術に関するものが多いが、音楽、映画、デザイン、そして20~21世紀の文化・芸術を理解するうえで重要となる思想書も含まれている。

 基本が学生向けなので、なるべく文庫本や新書のような廉価な本、入手しやすい本を基準にしており、洋書は入れていない。また絶版本は極力避けているが、名著として高く評価され、多くの図書館に収蔵されているものは入れている。また、アートブック、写真集は入れておらず、基本的にテキスト中心の本でまとめてある。

 このなかには薄くて読みやすいものもあれば、かなり分厚く読みづらいものもある。しかし、薄かろうが分厚かろうが、「頭のダンベル」になるものという基準で選んでいるので、クリエイションを本気で学ぼうとする者にとって、確実に頭のトレーニングになるだろう。

 ここでは、その「クリエイションを学ぶための100冊」リストより25冊を抜粋して紹介したい。

《美術関係》
□ 高階秀爾『20世紀美術』ちくま学芸文庫/筑摩書房
□ マルセル・デュシャン『デュシャンは語る』ちくま学芸文庫/筑摩書房
□ 利光功『バウハウス 歴史と理念(記念版)』アート&デザイン叢書/My Book Service Inc.
□ 塚原史『ダダイズム 世界をつなぐ芸術運動』岩波現代全書/岩波書店
□ 亀山郁夫『ロシア・アヴァンギャルド』岩波新書/岩波書店
□ エルンスト・H・ゴンブリッチ『美術の物語』河出書房新社
□ ミヒャエル・エンデ&ヨーゼフ・ボイス『芸術と政治をめぐる対話』岩波書店
□ アンドレ・ブルトン『シュルレアリスム宣言・溶ける魚』岩波文庫/岩波書店
□ アーサー・C・ダントー『ありふれたものの変容 芸術の哲学』慶應義塾大学出版会

《音楽関係》
□ 芥川也寸志『音楽の基礎』岩波新書/岩波書店
□ 小泉文夫『音楽の根源にあるもの』平凡社ライブラリー/平凡社

《デザイン関係》
□ 河尻亨一『TIMELESS 石岡瑛子とその時代』朝日新聞出版
□ マイケル・クローガー他『ポール・ランド、デザインの授業(新版)』ビー・エヌ・エヌ新社

《建築関係》
□ 安藤忠雄『建築を語る』東京大学出版会
□ 八束はじめ『ル・コルビュジエ』講談社学術文庫/講談社

《映画関係》
□ 佐野亨『スタンリー・キューブリック』シリーズ 映画の巨人たち/辰巳出版
□ 蓮實重彦『監督 小津安二郎(増補決定版)』ちくま学芸文庫/筑摩書房
□ フランソワ・トリュフォー/アルフレッド・ヒッチコック『定本 映画術』晶文社

《写真関係》
□ 細江英公/澤本徳美『写真の見方』とんぼの本/新潮社
□ スーザン・ソンタグ『写真論』晶文社

《批評・評論・サイエンス関係》
□ ヴァルター・ベンヤミン『複製技術時代の芸術』晶文社クラシックス/晶文社
□ ジャン・ボードリヤール『消費社会の神話と構造(新装版)』紀伊國屋書店

《文化人類学関係》
□ アンドレ・ルロワ=グーラン『身ぶりと言葉』ちくま学芸文庫/筑摩書房
□ クロード・レヴィ=ストロース『野生の思考』みすず書房

《テクノロジー関係》
□ ノーバート・ウィーナー『人間機械論 人間の人間的な利用(第2版)』みすず書房

 いかがだろう。定番すぎるような名著もあれば、意外な、または珍妙に思えるタイトルもあるが、すべて私が読了済みで中身に太鼓判を押すものばかりなので、未読のものがあればぜひ試してみてほしい。

(本原稿は菅付雅信『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』から一部を抜粋・編集して掲載しています)

菅付雅信(すがつけ・まさのぶ)
編集者/株式会社グーテンベルクオーケストラ代表取締役
1964年宮崎県生まれ。『コンポジット』『インビテーション』『エココロ』の編集長を務め、現在は編集から内外クライアントのコンサルティングを手がける。写真集では篠山紀信、森山大道、上田義彦、マーク・ボスウィック、エレナ・ヤムチュック等を編集。坂本龍一のレーベル「コモンズ」のウェブや彼のコンサート・パンフの編集も。アートブック出版社ユナイテッドヴァガボンズの代表も務め、編集・出版した片山真理写真集『GIFT』は木村伊兵衛写真賞を受賞。著書に『はじめての編集』『物欲なき世界』等。教育関連では多摩美術大学の非常勤講師を4年務め、2022年より東北芸術工科大学教授。1年生600人の必修「総合芸術概論」等の講義を持つ。下北沢B&Bにてプロ向けゼミ<編集スパルタ塾>、渋谷パルコにて中学生向けのアートスクール<東京芸術中学>を主宰。2024年4月から博報堂の教育機関「UNIVERSITY of CREATIVITY」と<スパルタ塾・オブ・クリエイティビティ>を共同主宰。NYADC賞銀賞、D&AD賞受賞。