優れたアイデアや表現を生み出すための最強技法と意識改革をまとめた書籍『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』が刊行されました。編集者として坂本龍一、篠山紀信、カール・ラガーフェルドなど数多くのトップクリエイターと仕事をし、大学教授としてもクリエイター育成に携わってきた菅付雅信氏による渾身の一冊です。
アウトプットの質と量は、インプットの質と量が決める。もしあなたが「独創的な企画」や「人を動かすアイデア」、「クリエイティヴな作品」を生み出し続けたいのであれば、やるべきことはたった1つ。インプットの方法を変えよ!
この連載では同書内容から知的インプットの技法を順次紹介していきます。今回は、生成AIが台頭する時代にクリエイターに必要なことについて。

生成AIの時代にクリエイターに必要なことPhoto: Adobe Stock

You are what you read, see and listen.

 英語には「You are what you eat.」という慣用句がある。「あなたはあなたが食べたものでできている」という意味だ。

 ベストセラー『生物と無生物のあいだ』で知られる生物学者・福岡伸一氏の唱える動的平衡論によると、私たち人間の身体の細胞は骨を除くと、ほぼ2年で完全に入れ替わるという。それは何によって入れ替わっているのか? 私たちは私たちが食べたもの=what you eatによって、身体のすべてが形成され、入れ替わっているのだ。

 あなたが食べたオーガニック野菜もジャンクフードも、必ずあなたの身体の一部になる。

 クリエイティヴに関しても、まったく同じことが言えるだろう。

 先の英文に即した慣用句に「You are what you read.」というものがあるが、それをさらに拡大して考えると、こういう一文になるだろう。

 You are what you read, see and listen.

 つまり、「あなたはあなたが読んだもの、見たもの、聴いたものによってできている」。

 あなたはあなたがインプットしたもの、見聞き体験したものでしかできていないのであれば、よりクリエイティヴな人間になるには、より良いインプットを行うしかない。

「一流のもの」だけを体に入れよ!

 ここで私が出会ってきた多くの優れたクリエイターが実践していることを総合し、そこから抽出される日常的方法論を一行で要約すると、次の言葉になる。

「自分を賢くしないものを、自分の目と耳と口に入れない」

 唖然とするほどシンプルな方法だろう。

 情報の洪水に翻弄されず、自分を賢くするものだけを常に選び、身体に入れること。これはクリエイティヴ教育におけるもっとも重要なテーゼであり、本書で伝えたいことのコアだといっていい。

 漫画の巨人、手塚治虫もこう言っている。

「君たち、漫画から漫画の勉強をするのはやめなさい。一流の映画を見ろ、一流の音楽を聞け、一流の芝居を見ろ、一流の本を読め。そして、それから自分の世界を作れ」

「いいもの」と「すごいもの」は違う

「いい(good)」と「すごい(great)」の差に敏感であること、そして「すごいもの」を的確に選び取ること、それがプロのクリエイターには求められる。

「いいもの」は日常にもあふれているが、「すごいもの」は数少ない。よって、そこそこの「いい本」を10冊読むより、「すごい本」を1冊読むほうが頭のトレーニングになると考えるし、大きな時間の節約にもなる。

 第一線のプロは忙しいのだから、そこそこのものをインプットするのは時間の無駄だ。よく「読書好き」を公言する人で、そのわりには教養のない人は、そこそこの本ばかりを読んでいることが多い。

「そこそこ」を回避するためには、インプットをするときに問うてみるといい。「はたしてこれは自分を賢くしてくれるものなのか、否か?」と。

 歴史や他者からの評価にさらされた基準に加えて、「いい」と「すごい」の違いを判別できる自分自身の選択の勘をしっかり養っていくことが、インプット・ルーティンの肝になってくる。

「すごい」の基準を持っている人間は、成功する

 さらに言うと「いいもの」は、ある程度のトレーニングをすれば、誰でもつくれる。これからAIがクリエイティヴ領域のなかに急速に浸透していくので、そこそこの「いいもの」は、人間の知恵を借りずともAIがつくってくれる時代になる。

 しかし、「すごいもの」は誰でもつくれるわけではない。AIはリスクのある答えを出さないので、AIに「すごいもの」はつくれない。

 そして「すごいもの」を知らずして、「すごいもの」はつくれない。

 特に若いクリエイターは、自分の中に「すごい」のレファレンス(基準)を持っているかどうかが決定的な差になる。若くてまだ成功していない人でも、会って話をするとそのレファレンスが本人のなかにあるかどうかがすぐにわかるものだ。そのような高いレファレンスを持っている若い人は、たいてい成功する。

(本原稿は菅付雅信『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』から一部を抜粋・編集して掲載しています)