日本で燃え尽き症候群(バーンアウト)というと、大きな課題を克服した後の空虚な心身状態、と捉えることが多い。
しかし、これは誤用。本来は医師や一部の営業職など高いスキルとモラルを要求される顧客サービス業従事者に特有の症状を指す。このバーンアウトが心臓病のリスクになる、という研究が米精神身体医学会の機関誌に報告された。
調査対象者はイスラエルにある健診センターを受診した19~67歳の男女8838人。調査開始時点に「バーンアウト調査票」を使い、燃え尽き度を記録。その後の心臓病発症との関連を解析した。
その結果、平均調査期間の3~4年後に心疾患を生じたのは93例で、「燃え尽き感」を意識していた人は年齢や性別、喫煙歴といった影響因子を排除しても、「燃え尽きていない」人より41%、心疾患リスクが高まった。しかも最も「燃え尽き感」を感じていたグループでは、79%も心疾患リスクが上昇したのである。
研究者はバーンアウトと睡眠障害、あるいは不安障害との関連を指摘した上で「バーンアウトは単独で心疾患のリスクになる」としている。
バーンアウトの主症状は、(1)情緒的消耗感、(2)顧客に対する紋切り型、非人間的な態度、(3)個人的達成感の低下の3点。
(1)は顧客の絶え間ない(と思える)情緒的な要求に気配りで応えることに「ほとほと疲れ果てた」という感覚だ。(2)はマニュアル的な対応と言い換えてもいい。逆説的だが、マニュアル対応で満足できる人は燃え尽きたりはしない。(3)は評価・報酬体系が曖昧な顧客サービス業のジレンマだろう。
バーンアウトの発症リスクには「ひたむきさ」や「職務上の役割と自分の人格を切り離せない」不器用さがあるらしい。例えば、上司や顧客のクレームに「全人格を否定された」と思い込む性向は心臓と心身を危険にさらす。
百戦錬磨の諸氏にバーンアウトは無縁かもしれない。しかし新年度の新しい環境によってはリスクが高まる。身を守る秘訣は、仕事に過度の期待を持たず、のめり込み過ぎないことだ。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)