年齢とともに眠りの質が悪くなった、とはよく聞く話。しかし、英米で行われた「生活の質(QOL)」に関する二つの調査研究によると、むしろ加齢とともに精神状態が安定し、ぐっすり眠れるようになるらしい。調査対象は50代後半の男女だから年齢相応の落ち着きと余裕が睡眠の質にも影響しているのだろう。逆に、この年齢で睡眠障害を抱えている場合は、何かしらの原因──病気、もしくは家庭の憂いというやつかもしれない──を疑ったほうがいいようだ。
両調査では、睡眠時間が6~8時間のグループが最も心身の状態がよく、6時間未満や8時間以上ではQOLが低下し、心疾患発症リスクが上昇すると指摘されている。事実、この3月に発表された45歳以上の男女、3000人を対象にした米国の別の研究では、睡眠時間6時間未満のグループで脳卒中や心臓発作の発症リスクが2倍、うっ血性心不全の発症リスクが1.6倍に上昇することが示された。一方、8時間以上の睡眠は狭心症の発症リスクを2倍に、冠動脈疾患の発症リスクを1.1倍上昇させるようだ。
睡眠不足は食べ物に対する脳の反応を促進して、過食を招くことが知られている。結果的に肥満や糖尿病、脂質異常症などの代謝性疾患を引き起こし、しまいには致命的な一撃を心臓にもたらす。
しかし、8時間以上の睡眠が心臓に与える悪影響のメカニズムは不明のまま。今後の研究結果を待つ必要があるが、一つ考えられるのは、睡眠時無呼吸症候群で中途覚醒があるなど、睡眠の質そのものが悪いこと。睡眠時無呼吸症候群は高血圧を発症、悪化させる要因であり、近年は夜間の突然死との関連で注目されている。欧米では肥満者の病気だが、日本人は下顎が小さいために舌がのどの奥に落ち込んで気道をふさぐケースが少なくない。9時間、10時間眠ってもスッキリしない場合は疑ってみるべきだろう。
ともあれ、個人差はあるにせよ睡眠時間は6~8時間が最適のようだ。うまくコントロールできれば心血管疾患の予防につながるかもしれない。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)