日銀って確か、インフレを目標にしているという記事を読んだ気がするんですけど
吉田:あれ、でも日銀って確か、インフレを目標にしているという記事を読んだ気がするんですけど。
アカツキ:意外にちゃんと勉強しているな。正確に言うと、日本が1990年代から四半世紀以上もデフレに陥ってしまったから、そこから抜け出すため、2013年4月から2%の物価上昇率を目指して「異次元の金融緩和」という政策を続けてきたんだ。
吉田:二次元の金妻マンガ!?
アカツキ:さすがに無理があるだろ。さっき説明した通り、世の中に流通するお金の量を増やせば物価が上がる。この調節のために使うのが、日銀が他の銀行にお金を貸すときの金利である政策金利だ。それまでは、物価を上げたいときにはこの政策金利を下げて銀行がお金を借りやすいようにすることで、世の中に流通するお金の量を増やしていた。だが、この従来のやり方ではデフレを抜け出せなかったんだ。
吉田:あちゃー。物価の番人としては何とかしなきゃですね。
「異次元の金融緩和」って何?
アカツキ:そこで日銀は2016年1月から、日銀当座預金の一部の金利をゼロどころかマイナスにして、銀行がお金をたくさん貸し出せるように仕向けた。これが「マイナス金利政策」だ。さらに、国債をこれまで以上に大量に買い入れて、新たなお札を大量に発行するようにしたんだ。日銀が政府から直接国債を買うやり方は、インフレの原因になるから「禁じ手」というのが従来の経済学の常識だった。だから、まさに「異次元の金融緩和」と呼ばれているんだ。日銀は2024年3月にマイナス金利政策を終了したが、日本経済にとって、デフレ脱却は禁じ手を破らなければならないほど深刻な問題だったということだ。
吉田:でも先輩、なんでデフレはダメなんですか。モノの値段が下がったらうれしいじゃないですか。
アカツキ:物価は「経済の体温計」と言われていて、景気のバロメーターになっているんだ。モノの値段が多少上がっても、それで企業の利益が増え、働く人の賃金も上がれば、人々の消費意欲は高まる。この好循環がいわゆる好景気だ。逆にデフレの時代、日本経済は物価が上がらない「低体温」で苦しんできた。企業は値下げ競争を続け、賃金は上げるどころか削る対象になった。モノの値段が下がっても、消費者はもっと値段が下がると考えて、なかなかモノを買わなくなってしまった。不景気が続いたことで日本企業の体力が無くなり、世界での競争に勝てなくなった。その結果、日本という国全体もどんどん貧しくなってしまったんだ。
「悪い物価上昇」って何?
吉田:あれ? でも最近は物価が上がってるというニュースばかりですよね。デフレはどこにいったんですか。
アカツキ:今の物価高の大きな原因は、輸入品の価格上昇だ。ロシアのウクライナ侵攻で原油や小麦などの国際相場が高騰した上に、円安も進んで輸入価格の上昇に拍車がかかった。日本経済は長引くデフレに加えてコロナ禍で大打撃を受けた。そこから回復しきれず、賃金が上がって消費が十分に回復する前に、物価だけが高くなってしまった。賃上げを伴っていないと本当の意味でデフレから抜け出した、好景気を表す物価上昇とは言えず、「悪い物価上昇」とも呼ばれているんだ。
吉田:いい物価上昇と悪い物価上昇があるんすね。じゃあ先輩も、貸した1000円のことなんて気にしない、いい先輩になってください!
アカツキ:ふざけるな。
※本稿は『「鷹の爪」の吉田くんが聞く!経済ニュースと時事用語がめちゃくちゃわかる本』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
※吉田くんとアカツキ先輩が活躍中のアニメ連載「そもそも?知りたい吉田くん」は朝日新聞デジタルで読むことができます。