三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから紐解く連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。第141回は高井さんが「意味不明」「合理性に欠ける」と指摘する学資保険を、あえて契約した理由を明かす。
「保険は貯蓄」に魅力はない
世界屈指の保険大国・日本の保険ビジネスの歴史を投資部メンバーは振り返る。戦後、死亡保障型の保険が急速に普及した背景には、「保険は貯蓄」という貯蓄好きの国民性に訴えかける強力なキャッチフレーズがあった。
この連載で書いてきたように、私は「保険は原則、掛け捨て」派だ。万が一のリスクには最小限のコストで備える。保険料を「捨てる」ことになれば、望ましくない出来事が避けられたのだから人生全体ではラッキーだ、という考え方だ。
この観点からは「保険は貯蓄」というキャッチフレーズはほとんど魅力がない。かつての高金利時代ならともかく、バブル崩壊以降は合理性に欠ける選択だった。
その最たる例は学資保険だ。親が死んだ場合の学費に備える典型的な「四角形」の保険なわけだが、子どもが死亡すると保険金が出るという商品性は意味不明だ。
子どもの死は最も起きてほしくない悲劇だが、お金の心配だけを考えれば、生活費や学費など経済的負担は減る。支払い済みの保険料が戻ってくるだけという仕組みの商品だとしても、経済合理性があるとは思えない。
ここまで不要論を展開しておいて手のひらを返すようだが、実は私は三姉妹にそれぞれ学資保険をかけた。ごく最近、三女の契約が満期を迎えたところだ。なぜ学資保険を契約したのか。
積立投資の方がリターンは高いが…
一言で言えば、それは「義理人情」だった。2000年に長女が生まれたとき、ある近しい人が学資保険のアレンジをしてくれた。それは誕生を祝う気持ちから用意された、真心のこもった「贈り物」だった。
当時、私は「賭け金を積立投資に回せば、恐らく学資保険より高いリターンが得られるだろう」と予想した。しかし、それはしょせん、そろばん勘定でしかない。いずれにせよ学費の積み立て貯蓄はするつもりだったから、ありがたく厚意を受け入れた。長女が前例となり、次女、三女が生まれたときも同額の学資保険を契約した。
結果として学資保険は天引き貯金として十全に機能した。一人ひとり満期を迎えるたび、保険を用意してくれた人のことや、毎月きちんと積み立ててきたことを振り返り、「やってよかったな」という充足感を覚えた。
少し前に長年の友人のファンドマネジャーA氏と対談した時、教育資金の積み立て投資が話題になった。我が家の三姉妹とさほど歳の違わないお子さんがいるA氏は、学資保険ではなく積立投資を選んだ。アベノミクス相場の恩恵もあってリターンはほぼ100%、つまり原資が2倍になり、学費を賄ってお釣りが出たそうだ。
我が家もそちらを選んでいたら、という思いがゼロかと言えば嘘になる。だが、自分の選択は後悔していない。お金の管理や運用は合理性をベースに行うべきだが、同時に、生身の人間がやることなのだから、そろばん勘定がすべてではないだろう。
マンガの話を少しだけ先取りすると、財前の父は結局、保険契約を結ぶこととなる。妻の趣味に狙いを定めた生保レディ・安ヶ平真知子に軍配が上がった形になるのだが、この結末が財前と父の「敗北」とは言い切れないと思う。長い年月のなかで保険の存在をどう感じるかは、分からない。だから人生は面白い。