内容の「92%」が黒塗りにされた公文書。これは市民の「知る権利」に応えているのか?2018年に社会保険の分野で貧困ジャーナリズム賞を受賞したフリーライターの日向咲嗣(ひゅうが・さくじ)さんは、数々の地方自治体に情報開示請求を続け、公文書の闇に迫ろうとしている。横行する黒塗り公文書の衝撃的実態を著書『「黒塗り公文書」の闇を暴く』から一部を抜粋・再編集して解説する。
92%を黒塗りにして公開された1400枚の公文書
いったいどれくらいインクをぶちまけたら、こんなに大量の紙を真っ黒にできるのだろうか――。
開示文書が黒塗りされることは、ある程度、覚悟はしていたものの、その現物が、いざ目の前に現われると、予想をはるかに超えたインパクトで目前に迫ってくる。
ダンボール箱に隙間なくギッシリと詰め込まれた約1400枚の公文書。2018年4月20日に和歌山市教育委員会に開示申出してから3ヵ月後の7月上旬、自宅に届いた「荷物」を開封したところ、出てくる紙という紙のほとんどが、真っ黒に塗りつぶされていたのだ。その割合を算出すると、実におよそ92%にもおよんだ。
自宅の空き部屋に、その一部をダンボールから出して一枚一枚広げて並べてみると、「圧巻」とか「壮観」というより、「悪寒」が走るような、忌まわしい光景が目の前に現われて、たちまち気が滅入ってしまった。
黒く塗りつぶされた部分には、細かい出来事が几帳面に記録されていることだけはイメージできるものの、その内容を一般市民に開示することを、これ以上ないほど力強く、なかおつ、これ以上ないほど頑なに拒絶しているようにみえる。
その文書作成の裏側では、透明性のある行政とはほど遠い、何か尋常ではないことが、いまこの瞬間も着実に進行していることが、改めて感じられた。
私がいちばんショックを受けたのは、この1400枚にもおよぶ黒塗り文書を出した担当部署が、市民図書館だったことである。
市民の知る権利を守る最後の砦であり、市民の情報アクセスをサポートしていくはずの機関が、自ら執行する行政(新図書館建設)にかかわることとはいえ、かたっぱしから真っ黒に塗りつぶした公文書を平然と市民に送りつけてきた事実は、私の図書館に対する信頼を根底から覆した。
私が知っている図書館の人は、何か知りたいことをひとつ尋ねると「こんな情報があるよ」「こんな本もあるよ」とばかりに、あれもこれもと驚くほどのサービス精神でレファレンスしてくれる。たとえ目的の情報にたどりつけなかったとしても、情報開示に対するあくなきスタンスは一貫していて、これまでただの一度も例外はなかった。それが「図書館職員の本能」みたいなものなのだろうと思っていた。