「タイトルに共感した」「優しく包んでくれるような本」「どんどん読み進めていけました」など、読者からの共感の声が続々届いているベストセラー『人生は「気分」が10割 最高の一日が一生続く106の習慣』(著:キム・ダスル、訳:岡崎暢子)は日韓累計35万部を突破した。本書では、「気分」をコントロールし、毎日を機嫌よくすごすために必要なことが軽やかな語り口で書かれている。本稿では、『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』の著者であり、プロダクトデザイナーの秋田道夫氏に、これまでの経験の活かし方について伺った。(取材・文 宮本恵理子、構成 ダイヤモンド社書籍編集局)
自分の居場所は自分で決める
――秋田さんはトリオ(現ケンウッド)、ソニーで製品デザインを担当した後、35歳で独立しています。もともと独立志向はあったのでしょうか?
秋田道夫(以下、秋田) 会社にずっと勤める気は最初からなかったですね。入社式のときにすでに辞める時期を想像していたくらいですから、変わった新入社員だったと思います。
当然、「出世はしない」と決めていました。だって、いつか辞めると分かっているのに出世したら迷惑をかけてしまうでしょう。上司にはずいぶん勧められましたが、昇進試験はかたくなに受けませんでしたし、海外出張に積極的に手を挙げることもしませんでした。会社にお金を借りて家を建てられる制度もありましたが、使いませんでした。わたしにお金をかけてもらうのはもったいないと思っていたからです。
とにかく自分がいる間は会社に損をさせないように、できるだけ儲けさせるようにと気を付けていました。
だから、辞めるときは気が楽でしたよ。会社に対して引け目を感じることなく独立できました。独立後は自分から特にアピールしなくても、「秋田さんはソニー出身なんですよね」と信頼してもらえて仕事が来ましたから、ありがたかったですね。
――大企業のネームバリューを利用したい人はたくさんいると思いますが、秋田さんは自らアピールすることはしなかったのですね。
秋田 はい。今でもそうです。わたしのXのプロフィールはものすごくシンプルにしています。ソニーの名前も一切出していません。
過去の履歴に依存したくないんですね。自分の力で勝負したいですし、できるだろうとどこかで思っているのでしょう。でも世間の目は違うんですよね。今でもGoogle検索に「秋田道夫 ソニー」とか出て来てしまいます。会社をやめて40年近いのに(笑)。
「書きすぎず書き足らず」
――自作の名刺に前職や前々職の肩書きをずらりと連ねる人も多いです。
秋田 そうですね。「略歴」なのに、有名な小学校を出ている事をアピールする人もたまに見かけます。他方、学歴にはまったく触れずに仕事の成果だけを書いている人もいます。もちろん決まったフォーマットはありませんが「書きすぎず書き足らず」が大人の所作かなと思います。
――未経験の分野やあまり興味のなかった分野での依頼があったときには、どう対応してきましたか。
秋田 ウェルカムですよ。わたしはなんにでも好奇心が湧くタイプなんです。思いがけない話が来たときにも、「あ、それやってみたかったんですよ」という言葉が自然と出ちゃうんです。別にビジネス的な野心からそれを意識しているわけでなく、本当に素直に言葉が出てくるんです。
――代表例の一つ、交通系ICカード「Suica」のチャージ機も、「思いがけない依頼」などは、参照できるお手本もなかったのではないでしょうか。
秋田 はい。まさにまだ世の中にないものを形にするような仕事でしたね。だから、ワクワクしました。これは、ソニー時代に「世界初」の製品づくりに携わる経験を積んで鍛えられていたことが効いたのだと思います。
過去の経験とは、そういうふうに生かすものであって、字面を並べることではないのではない。というのが私の持論です。
1953年大阪生まれ。愛知県立芸術大学卒業。ケンウッド、ソニーで製品デザインを担当。1988年よりフリーランスとして活動を続ける。代表作に、省力型フードレスLED車両灯器、LED薄型歩行者灯器、六本木ヒルズ・虎ノ門ヒルズセキュリティゲート、交通系ICカードのチャージ機、一本用ワインセラー、サーモマグコーヒーメーカー、土鍋「do-nabe240」など。2020年には現在世界一受賞が難しいと言われるGerman Design AwardのGold(最優秀賞)を獲得するなど、受賞多数。2021年3月よりX(@kotobakatachi)で「自分の思ったことや感じたこと」の発信を開始。2022年7月からフォロワーが急増し、10万人を超える。著書に『機嫌のデザイン まわりに左右されないシンプルな考え方』(ダイヤモンド社)、『かたちには理由がある』(早川書房)がある。