地方から東京都への流入者数に占める
20~29歳の割合

地方の若者が東京に流入する主な段階は大学進学ではない、誤解に基づく政策を正せ地方から東京都への流入者数に占める20~29歳の割合 出所:総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告」

 石破首相が力を入れる政策の一つが「地方創生2.0」だ。地方創生は2014年にスタートし、出生率の低迷や地方の衰退に歯止めをかけるため、東京一極集中の是正を政策目標の一つに掲げてきた。だが、15年に1.45だった合計特殊出生率は、23年の1.20に至るまで8年連続で低下。地方創生の出生率への効果は確認できない。

 背景には、二つの大きな誤解がある。一つ目は「出生率の低い東京が全国から若い女性を引き付け、その結果として、日本全体の出生率を低下させている」という誤解だ。20年の国勢調査から都道府県別の平均出生率(未婚を含む出産可能な15~49歳の女性人口1000人当たりの出生数)を計算すると、東京都は31.5で42位となる。都心3区(千代田区・港区・中央区)に限定すると平均出生率は41.7で、1位の沖縄県(48.9)に次いで2位だ。

 もう一つは「地方の若者が東京に流入する主な段階は、大学等への進学時点である」という誤解だ。住民基本台帳人口移動報告によれば、23年の東京都への流入超過は男女計で約5.8万人(流入9.6万人、流出3.8万人)だ。この流入9.6万人のうち、15~19歳が占める割合は14.5%にすぎず、20~24歳が占める割合は63.6%、25~29歳が占める割合は21.8%だ。

 大学等への進学は通常は18歳、就職は22歳や23歳が多いことから、地方の若者が東京に流入する主な段階は大学等への進学時点ではなく、就職時点であることは明らかだ。なお、以上のデータは男女別でもおおむね同様の結果になる。

 政府は東京一極集中の是正を目的に、23区内での大学の定員増を原則禁止する規制を一時的に設けているが、ターゲットを間違えている。地方の若者が東京に流入するのを抑制したいなら、就職段階での対応を検討する必要があろう。

 政府は「証拠に基づく政策立案」を推進しているが、間違った前提で政策を実行すれば効果がないのは自明だ。効果的な政策を実行するには、正しい情報やエビデンスに基づき分析をした上で政策を立案する必要がある。

(法政大学 教授 小黒一正)