当たり前だけど、加害者が100%悪い
犬山:友達でも、性被害に遭ったけれど、加害者が知り合いだったから訴えられないって悩んでいる子がいたりします。周りがいくら「警察に相談したほうがいいんじゃない?しなよ」と言っても、「これ以上傷つきたくない」って。そう思わされてしまう社会なんですよね。例えば「なんでホテルに行ったんだ」とか、「被害者のほうが悪いんじゃないの」って責められることがあるじゃないですか。
滝乃:そういう価値観を変えたいですよね。「被害にあったら、加害者が100%悪い」という価値観を、しっかりと持ってほしいです。
犬山:この本を読んでいると、二次加害をするリスクも減らせると思うんです。わたし自身も二次加害をされたことがあって。
滝乃:どんなことがあったんですか?
犬山:新幹線の中で、わたしがトイレに行くときに荷物を席に置いたまま行っちゃったんですね。戻ってきたら、財布からお札を抜いている人が目の前にいたんですよ。そのとき、本当は冷静に対処すべきなのに、つい「返せ!」って言っちゃって。金より命のほうが大事じゃないですか。今思えば、取らせておけばよかったんですけど、そのときは判断がおかしくて……。
滝乃:いやいや、目の前にいたら言っちゃいますよね。「返してください」って。
犬山:相手は新幹線の停車時間とかも計算して、あと1分で駅に着くタイミングでやってるんですよ。次の駅でサッと逃げていきました。
滝乃:それでも冷静に対応できたのはすごいですよ。
二次加害をなくしたい
犬山:ただ、SNSにその体験を投稿したら、そんなの、「次からはもう荷物を置いてトイレに行くのはやめよう」って当事者は思っているわけで。でもどんな理由があれそもそも「いやいや、違うでしょ。盗むやつが悪いんだよ」って。
滝乃:なんで犯罪者の肩を持つんだ、と不思議です。被害者側に「自己責任」を求める考えが内面化されすぎている面もありますよね。
『いのちをまもる図鑑』は「自分の身を守る」ことをテーマにしていますけど、「全て自分で守り切らなきゃいけない」なんてプレッシャーは与えたくないんです。執筆にあたっては、そことどうバランスを取るか、すごく悩みました。
例えば「犯罪者から逃げるときはこうやるんだよ」と書いていても、逃げられなかった場合に、「逃げられなかった自分が悪い」なんて思ってほしくない。だから、捕まってしまったり、被害に遭ったとしても「全然あなたは悪くないんだよ」というフォローを繰り返し入れました。
犬山:その「繰り返し」っていうのがすごく大事ですよね。読むことで理解が深まっていく、という部分もあると思います。
図書館という情報アクセスの場
犬山:ところで、虐待を受けている子どもがこの本を買ってもらえる可能性は低いかもしれないですよね。
滝乃:そうですよね……。それも考えて、「友達が虐待を受けているかもしれない場合はどうするか」といったこともこの本に入れていますが、自分で読める環境があるともっと良いですよね。
犬山:学童とか学校図書館にこの本を置いてもらえたら、そういう子どもたちも読めると思って、どうかたくさんの図書館に置かれて欲しい。
滝乃:ぜひそういうところに置いてほしいと思って、初版のとき出版社にいただいた本は区の図書館に寄贈しました。編集者さんのアイデアで、『いのちをまもる図鑑』には、図書館の利用方法を知らない子のための案内も入れています。虐待を受けている子にはネット環境がない場合もあるだろうし、そういうとき、図書館で本を読んだり、パソコンを使ったりすることで、自分を助ける情報にアクセスしてくれたらいいなって思います。
犬山:本当にそうですよね。どんな子どもでも情報にアクセスできるっていうのはすごく大事なことだと思います。
滝乃:そういう状況の子は、この本を買わなくてもいいから、とにかく命を守ってくれたら、それで十分だと思ってます!
※本稿は、『いのちをまもる図鑑』と『女の子が生まれたこと、後悔してほしくないから』についての書き下ろし対談記事です。