自然災害から犯罪まで、子どもは日々、あらゆる危険に遭遇する。そんな危険から身を守る方法を紹介した書籍が池上彰総監修『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)だ。
本書の中でも反響が大きいのが「犯罪からいのちを守る」の章。今回の記事では、この章の監修者であり危機管理の専門家・国崎信江先生に、刊行を記念して特別インタビューを行った。
ショッピングモールなどで子どもが「トイレに行きたい」と言ったとき、男の子を女子トイレに連れて行くかどうか、また、いつから一人で男子トイレに行かせるかで悩んだことがあるお母さんは多いようだ。公衆トイレは犯罪被害に遭いやすい場所。子どもが被害に遭わないようにするには、どういうところに気を付けたらいいのだろうか。(取材・構成 / 小川晶子)
公衆トイレに一人でいる子どもは狙われる
――少し前にSNS上で、男児を女子トイレに連れて行くかどうかがが話題になっていました。小学校低学年くらいまでは、まだ一人で男子トイレに行かせるのは心配です。ですから、お母さんだけで男の子と出かけている場合、女子トイレに連れて行くのが普通なのかと思っていましたが、子どもであろうと男性が女子トイレにいることが嫌だと感じる人が思った以上にいるのだということがわかりました。
国崎信江氏(以下、国崎):いろいろ議論はあると思いますが、小さい男の子を一人でトイレに行かせるのは危険です。デパートやサービスエリアなどの女子トイレには、男の子用のトイレがあったりしますよね。社会通念上も、男性の保護者が付き添えない場合は「小さい男の子は女子トイレに連れて行っていい」というのが常識と思っていいでしょう。異性のトイレに連れて行くのが気になるようでしたら、多目的トイレを使ってください。
ただし、年齢の問題はあります。公衆浴場で、男の子がお母さんと一緒に女湯に入れるのは6歳くらいまでです。自治体によって9歳までのところや身長で制限しているところもあります。女子トイレには明確な年齢制限はありませんが、小学校低学年くらいまではいいよねという感じではないでしょうか。
――やはり、子どもが一人でトイレに行くのは危険なんですね。
国崎:そうです。とにかくトイレは犯罪が多いのです。性被害にも遭いやすいです。
――慣れた場所や、短い時間でも危険なのでしょうか……?
国崎:短時間でも、一人でいる子どもは狙われます。そういう犯罪は一瞬のことなんです。犯罪者はしっかりシミュレーションして、ターゲットを狙って待ち構えていますからね。いつも行っているスーパーのトイレだから大丈夫、なんていうこともありません。3歳の女の子が、一瞬だけ目を離したすきに、地元のスーパーのトイレで殺害された事件もあります。ですから、防犯の視点からは子どもと一緒にトイレに入るのが正解です。
「男の子だから大丈夫」という誤解
――男の子も女の子も、どちらも同じように危険ですか?
国崎:はい。男の子のお母さんで「女の子だったら心配が多いだろうけど、うちは男の子だから良かった」というような発言をされる方がいらっしゃるんですが、「男の子だから安心」ではありません。
いまは多様な性への理解が社会に広がっていますからおわかりだと思いますが、性別にかかわらず性的な対象として見られる可能性があるということです。男の子がトイレで用を足しているところをじっと見てくる人がいたら、それは性被害の一つと言えます。
子どもが一人でトイレに行くことになったときは
――『いのちをまもる図鑑』は小学校低~中学年の子が自分で読んで「いのちを守る方法」について知ることができるようになっています。公衆トイレには「友だちやおうちの人と行く」のが基本ですが、どうしても一人になってしまうときは、入口に一番近い個室を使うのがいいということですね。
国崎:まず、入口で立ち止まってトイレの様子を確認しましょう。きれいで人の出入りが多いトイレなら安心できます。そのうえで、奥の個室からでは外まで声が届きにくいので、入口に近い個室に入ります。できれば家族や友だちに入口から「ここで待っているからね!」と声をかけてもらってください。不審者も、近くに人がいることがわかれば手出しできません。
――公衆トイレ以外で、危険なトイレはありますか?
国崎:カラオケのトイレも狙われますよ。カラオケは部屋が防音になっていて、騒いだところで聞こえないでしょう? 親がカラオケに夢中になっていて、子どもだけでトイレに行き、なかなか帰ってこないと思ったら性犯罪の被害にあっていたケースもあります。
――私たちが思っている以上に、危険は多いのかもしれないですね……。ちょっと怖くなってきました。
国崎:『いのちをまもる図鑑』にも書きましたが、トイレだけではなく「誰でも入れて、外から見えにくい場所」はどこでも危険です。不審者は誰でも入れる場所でターゲットに狙いをつけます。狙われてしまうと大変なので、親はきちんと警戒して、子どもが狙われにくいようにすることが大切です。
――親がよく見ていると感じたら狙いにくいですよね。子ども自身も正しく警戒できるように、危ない場所について話し合っておきたいと思います。
危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表
女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。国や自治体の防災関連の委員を歴任。『10才からの防犯・防災』(永岡書店)や『おまもりえほん』(日本図書センター)などの監修もつとめる。
※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。