SNSを通じて犯罪被害に巻き込まれる子どもが増えている。令和5年度は1665人もの子どもが被害に遭い、そのうち小学生は139人と過去最多。今後もSNSをはじめインターネットサービスが進化していく中で、子どもが犯罪被害にあわないためにはどのようなことに気を付けたらいいのだろうか。
そんな疑問にこたえる本が、池上彰総監修『いのちをまもる図鑑 最強のピンチ脱出マニュアル』(ダイヤモンド社)だ。本書では、自然災害から犯罪まで、子どもが遭遇しうるあらゆる危険から身を守る方法を網羅的に紹介している。今回の記事では、本書の第5章「身の回りの危険からいのちを守る」の監修者であり、危機管理の専門家・国崎信江先生に、SNS犯罪から身を守るためのポイントを聞いた。(取材・構成 / 小川晶子)

【SNS犯罪被害に巻き込まれる小学生が過去最多!】専門家に聞いた「SNS犯罪から身を守るために親子で知っておくべきこと」とは?Photo: Adobe Stock

気軽な「占い」から犯罪被害に

――SNSが原因で犯罪被害に巻き込まれた子どもは多く、昨年度は小学生の被害が過去最多だったそうですね。まず、どんな犯罪被害があるのか教えていただけますか?

国崎信江氏(以下、国崎):SNSで子どもに近づいて誘拐する「SNS誘拐」や、写真や動画を要求して所持する「児童ポルノ」、ゲームや占いなどの課金に誘導する「高額請求」などがあります。
とくに最近気をつけてほしいのが「占い」です。好きな子も多いですが、けっこう危険なことがあるんですよ。

――えっ、そうなんですか?

国崎:占いのサイトやアプリで、生年月日等を入力し、最初は無料で占い結果を見ることができることが多いです。この段階ですでに個人情報が取られていますよね。さらに、より詳しい結果を見ようとすると高額請求されるのが一つのパターンです。無料で相談できるといって1対1のやりとりが始まり、写真を要求されたり、わいせつ目的で直接会うように誘導されたりすることもあります。

――たしかに、占いのために必要だからと気軽に名前や生年月日を入力してしまいますよね。しかも、相手は占いの先生だと思っているので、やりとりが始まっても信用しちゃいそうですし……。

国崎:そうなんです。「ちょっとあなたのオーラを見たいから写真を送って」と言われて、疑わずに送ってしまったりするんです。知らない人に写真を送るのは絶対ダメです。顔の部分だけを切り取って、裸の写真と合成することもできますからね。その写真が世界の特殊な会員サイトで売買されます。日本は児童ポルノに対する意識が低いのですが、怖いですよ。

――顔写真だけでもそんなふうに使われることがあるんですね。これまであまり児童ポルノの事例に触れたことがなく、よくわかっていませんでした。

国崎:警察庁のサイトには、統計データや事例、子ども向けの資料などが載っていますので、ぜひ一度見てみてください。

オンラインゲームは他人とつながりやすい

国崎:オンラインゲームも要注意です。SNSを通じて犯罪被害にあった小学生のうち18%はオンラインゲームで容疑者と知り合っています。ゲームはもっとも他人と仲良くなりやすいコンテンツなのではないでしょうか。最初は友だち同士でやっていても、友だちが別の知り合いを連れてくることもあるし、他人とつながるのを防ぐのは難しいかもしれません。

――子どもが誰と一緒にオンラインゲームで遊んでいるのか外からはわからないので、「友だち」と言われたらそうなのかと思ってしまいそうです。

国崎:でも、危険があるからといってオンラインゲームを禁止することも難しいですよね。さまざまなリスクを知ったうえでやっているならまだいいのです。知識がなく、無防備な状態でいるがもっとも危ないです。親は子どもにオンラインゲームやSNSにどのような危険があるのかを伝え、「直接会いに行かない」「個人情報を載せない」という意識を作っておくことが大切です。

なぜ個人情報を載せてはダメなのか

――子どもに「SNSに個人情報を載せたり、よくわからないサイトに個人情報を入力したりするのはダメだよ」と伝えるとき、その理由を理解してもらうのが難しいのですが、そもそもなぜダメなのでしょうか?

国崎:まず、リアルに「存在していること」が相手に知られます。そして、個人情報からどのような人なのかがわかり、興味の対象となります。興味が強くなっていくと、今度は見たいとか直接会いたいという欲望にもなります。

ちなみに、私は偽プロフィールを作っていますよ。もちろん公的なものは正しい個人情報を提出する必要があります。でも、たとえばオンラインゲームに登録する際などは、個人情報を全部正しく入力する必要がないこともあります。

――それは思いつきませんでした! 確かに、そうですね。

国崎:ネット上で実名が必要なことのほうが少ないのです。個人情報は流出するものだと思って、自分で守れるところは守るようにしたいところです。オンラインゲームなどをするのなら、子どもにも一つ偽プロフィールを作っておいてあげてはどうでしょうか。

――そこまでできたら、危機管理への意識がかなり高い家庭ですね! なぜむやみに個人情報を知らせてはいけないのか親子でしっかり話すのが前提でしょうし。

写真や動画から居場所が特定されることも

――名前や住所、生年月日などが個人情報にあたるのはよくわかりますが、SNSに写真を載せるのも危険ですか?

国崎:『いのちをまもる図鑑』でも解説していますが、一枚の写真にはたくさんの情報があります。どのあたりに住んでいるのか、どこの小学校や中学校に通っているのかといったことまで、調べられてしまう可能性があります。マンションから外の景色を撮った写真も、「この位置にこのランドマークがあって、このアングルならどこのマンションの何階にいるな」ということがわかってしまうんです。

SNSには個人情報をのせない 解説『いのちをまもる図鑑』本文より イラスト:室木おすし

――怖いですね。YouTube動画が好きな子たちは、自分も動画を撮ってアップしてみたいという気持ちがあるようですが、家の中で動画撮影するのも気を付けたほうがいいですか?

国崎:たとえば背景に映っている本棚に並ぶ本からも伝わる情報があります。郵便物が見えたりすれば、住んでいるところもわかってしまいます。ですから、どうしても動画をアップしたいなら、スタジオを借りて撮影するのがいいと思います。家の白い壁を背景にするのもいいのですが、家だとどうしても緩んでくるものです。

――たしかに、慣れてくると油断してしまいそうです……。

国崎:それから、YouTubeやTikTokにしろ、その他のSNSにしろ、炎上やネガティブなコメントがつくリスクも知っておかなければなりません。面白がってもらえると思って載せた自分の作品に、「この程度でよく載せられますね」「誰々さんのマネですよね」などとコメントがついたら傷つきますよね。SNSは多くの人に見てもらえるチャンスになりますが、いいことばかりではありません。悪意を持って調べられて、個人情報をさらされるなどということも起こり得ます。

ネガティブなコメントがついても、負けずにやっていける子とそうでない子は分かれますよ。そこは親がよく見てあげてほしいですね。コメントができない設定にしたり、ネガティブなものは削除したりと、コントロールすることも必要かもしれません。

――『いのちをまもる図鑑』ではほかにもSNSでの注意点を紹介していますが、親が気づいていない危険も多くありそうです。親子で一緒に本を読みながら、SNSとの安全な付き合い方を学んでもよさそうですね。

国崎信江(くにざき・のぶえ)
危機管理アドバイザー。危機管理教育研究所代表
女性として、生活者の視点で防災・防犯・事故防止対策を提唱している。国や自治体の防災関連の委員を歴任。『10才からの防犯・防災』(永岡書店)や『おまもりえほん』(日本図書センター)などの監修もつとめる。

※本稿は、『いのちをまもる図鑑』(監修:池上彰、今泉忠明、国崎信江、西竜一 文:滝乃みわこ イラスト:五月女ケイ子、室木おすし マンガ:横山了一)に関連した書き下ろし記事です。