17年に健康企業宣言を発表
長く働きたいと思える環境に生まれ変わった

 浅野製版所が健康企業宣言を発表したのは17年のこと。さまざまな改革を進めていくうちに、それらが健康経営優良法人の基準に合致することが分かったのがきっかけで、同年には健康経営優良法人の認定を初めて取得するに至った。

 浅野製版所が当初目指していた“人が辞めない組織”は、“人が健康で働き続けられる組織”とも言い換えられる。

 同社では、心身ともに健康でいられる組織を目指し、コミュニケーションを取りやすく、心理的安全性の高いチームづくりや、病気・育児・介護などに直面しても、休みながら働き続けられる体制を構築。社員ができるだけ参加できるように、いろいろなイベントや施策で働き掛けている。

「健康経営優良法人をはじめとする多くの認定を取得したのは、外部からの評価を受けることによって、社員に『うちの会社って、意外と悪くないんだ』と思ってほしかったから。実際、組織風土を変えるために多くの社員が協力してくれ、社員の会社に対する思いは徐々に変化しました。10年前の全社員面談ではネガティブな声しか上がってきませんでしたが、今では『会社のために頑張りたい』『上司はちゃんと話を聞いてくれる』『社員を大切にしてくれる』など、ポジティブな意見が圧倒的多数を占めています」

 24年現在の社員の平均年齢は42歳。12年時点は32歳だったが、辞めずに働き続ける人が増えたことで、平均年齢は妥当な水準まで上がった。

「特に大きく変わったのは、働き続ける女性社員が増えたことです。ブラック企業時代は、男性を積極的に採用していこうという方針でした。しかし、働き手が減っていく中で、以前のように100%仕事だけに注力できる社員は男女問わず減っていくでしょう。そこで、時間単位の有給休暇制度や短時間正社員制度、部門によっては完全在宅勤務なども導入し、男女問わず誰でも、どんな状況になっても働き続けられる環境を整備しました。おかげで結婚し、子育てをしていても仕事を続ける人が増えて、今では女性の管理職比率が6割を超えるまでになっています」

 健康経営というと、「社員を健康にする」というイメージを持つかもしれないが、それで社員全員を満足させることはできない。事業を継続していくためには人が重要であり、人をつなげていくために「どんな社員でも『会社に来ることが嫌ではない』という環境をつくることを目指しています」と、新佐部長は語る。

「皆がしっかりとコミュニケーションを取り、サポートし合うことで、心理的な負担が減れば、誰しも会社に来ることが嫌ではなくなるでしょう。確かに、以前と比べればかなり環境は改善されましたが、まだやれることはある。これからも、より良い会社にするために、一つ一つ課題を解決していくつもりです」

 浅野製版所が経営危機に直面し、本格的な健康経営を推し進めて10年超。高い離職率だった“昭和”のブラック企業は、社員に愛され、人が辞めない組織に生まれ変わった。同社の改革は、働き方改革がなかなか進まない多くの中小企業にとって、大いに参考となるはずだ。