人手不足に長時間労働。課題だらけの運送業界で「健康経営」を実践する“変革者”

2024年問題で揺れる物流業界でも「健康経営」に取り組む企業がある。人を大事にする会社探訪の第1回は、健康経営優良法人2024に選定された機材搬送を担うサイショウ・エクスプレスの取り組みを紹介する。(取材・文/ライター 嶺 竜一、写真/カメラマン 原田圭介)

働き盛りのドライバーを襲う「がん」や「大動脈解離」

 人手不足による長時間労働が常態化する物流業界と健康経営。最も相性が悪そうな組み合わせにもかかわらず、経済産業省が認定する「健康経営優良法人2024」(※)に選定された運送会社がある。コンサートや各種イベント、展示会などに使う映像機器、音響機器や照明機器などの機材搬送を主な業務とするサイショウ・エクスプレスだ。

 同社は、認定企業の中でも特に優れた取り組みを行っている中小規模法人500社の「ブライト500」にも選ばれている。さらに、全国健康保険協会東京支部が推進する「健康優良企業 金の認定」も2024年に取得。創業69年、従業員34人の小さな運送会社だが、健康経営が一般に知られる前の16年から、齋藤敦士社長(当時は専務)が旗振り役となって、健康経営への取り組みを始めた。

 背景には二つの大きな要因があった。一つ目は従業員の健康問題だ。

「大きな病気を患う従業員が多かったんです。大腸がんだったり、胃がんだったり、大動脈解離だったり。毎年、毎年、大きな病気が発覚していました」(以下、発言は全て齋藤社長)

 しかも、病気になっていたのは高齢の人というわけではなく、40代、50代の働き盛りのドライバーだった。

「当時は喫煙率も高かったし、食事内容も悪かったんですね。ドライバーは1人で食べることが多いから、コンビニで済ませる人が多いんですよ。甘い缶コーヒーに菓子パン、カップラーメンばかり食べていて、肥満の人が多かったし、生活習慣病の予備軍だらけでした」

 イベントの機材搬送の仕事は、決まったルート配送とは違って早朝や深夜の稼働も多く、スケジュール変更も頻繁にある上、休日も不定期。当時は月間の時間外労働が100時間を超える従業員もいた。待機時間が長くなることが多く、運動をほとんどしていないのに、おなかがすくからカロリーの高い食べ物でおなかを満たす。そんな不摂生をしている人が多かった。

人手不足に長時間労働。課題だらけの運送業界で「健康経営」を実践する“変革者”サイショウ・エクスプレス 齋藤敦士社長

 また会社の飲み会は、最初に焼き肉屋に行き、居酒屋を経由して深夜にラーメンを食べ、さらに朝まで飲んでハンバーガーを食べてから帰る、というのが定番コースで、若くして大病を患う人が出たのにはそうした生活習慣に原因があるのでは、と齋藤社長は考えた。

 齋藤社長に健康経営に取り組むことを決意させたもう一つの要因は、身近で起きたショッキングな出来事だった。

※ 経済産業省は日本健康会議と共に、2016年度から「健康経営優良法人」を認定する制度を実施し、現在、大規模法人部門2988法人、中小規模法人部門1万6733法人が認定を受けている。