真っ先に『悪い点』を見てしまう親子

――東大にいても、それは感じますね。『親が言うから』という理由で東大にいる人って意外と多い印象があります。偉そうなことを言いますが、エリートの人がそれで良いのか? という感覚は自分も大きいです。

小原:中学受験のために小さいころから一生懸命に勉強しつつも、生徒たちはテストで評価をされるという経験を多くしているので、やはり『勉強=試験での結果』という捉え方が大きなウエイトを占めてしまう生徒もいます。たとえば進学校だと、テストが返ってくると、親御さんも生徒も、真っ先に『悪い点』を悲観的に見てしまうんですよね。この問題ができなかった、この科目の点数が悪かった、と。

でも、そもそもテストってなんのためにあるんだろう? って話なんですよ。『テストで間違えた』ということは、『本当の理解ができていないところ・自分がわかっていないところを発見できた』ということです。それは、自分一人で机に向かう勉強だけではなかなか把握することができないので、テストを受けてよかったね、ということなんですが、試験を突破することに主眼を置いた勉強を小さいころからやっている生徒たちにとっては、そういう感覚は薄いですね。試験でいい点数を取るための勉強がメインになってしまっている印象があります。

『論語』為政編の中に、孔子が弟子の子路に向かって、『知るということは、どういうことか教えてあげよう』として語った言葉に『之を知るを之を知ると為し、知らざるを知らずと為す。是れ知るなり』というものがあります。簡単に言えば、自分の知っていることと知らないこととをしっかりと認識することこそが、本当の意味で物事がわかっている、現代風に言えば、知識がある、ということなのだ、という意味になります。

駒東に限らず、どこの中高一貫校でもそうだと思うのですが、私たちは生徒たちに対し、中高の六年間において、『間違えない秀才である』ことを望んでいるのではなく、『間違いや失敗を通じて学びを深めて欲しい』と思っています。これは勉強だけではなく、同級生はもちろん、先輩や後輩たちと一緒に創り上げる部活動や行事等も含めた、あらゆる学校生活について思っていることです。とはいえ、同じ間違いや失敗を何回も繰り返して欲しくはないので、その点はやはり、指導したくなりますね(笑)

テストでいい点を取るためのテクニックは“悪”か?

――テストでいい点数を取る、ということだけを考えていると、テストのテクニックに頼ってばかりになってしまう、という批判もあります。実際、「御上先生」に登場する是枝先生は、国語の先生としてテクニックを毛嫌いしているというシーンがあるのですが、こうしたことについてはどうお考えですか?

小原:テクニックというと、物事の本質をつかまずに、人間の思考を浅くするものとして、ひとまとめに批判されがちなものですが、しかし自分は基本的にはあってもいいと思っています。なぜかというと、苦手意識のある生徒や理解できずに悩んでいる生徒にとっては、前に進むきっかけになることがあるからです。

たとえば、現代文に対して苦手意識のある子は多いです。『現代文が読めないんです! どうすればいいですか?』と。そんなときに、『漫然と読むのではなく、着目するポイントがあるんだよ』というテクニックを与えると、その苦手意識を払拭してくれる場合が多いんですよね。新しい視点を与えるという意味でのテクニックはとても重要だと思います。

――たしかに、「テクニックは視点を与えてくれる」というのはすごく示唆的で正しいように感じます。どのように問題が作られているのか、出題者の意図はなんなのか、そもそもどうしてこんな問題が出ているのかを考えることにも繋がりますものね。逆に、安易にテクニックを使うのは良くないという意見もありますが、それはどうお考えですか?

小原:そうですね。テクニックを使うためには、やはりそれなりの技量が求められます。その点で言えば、安易にテクニックに頼る生徒は結局成績も伸びません。本当に学力がきちんと身に付いている生徒は、本質的になぜそのテクニックが有効なのかを理解した上で使っています

逆に、テクニックと称していて、実はテクニックとも言えない、本当に安易なものもあります。たとえば、どこから仕入れてきたのかわかりませんが、漢文では『道徳的なものが正解になりやすく、道徳的に間違っている選択肢は不正解になる』というテクニックもどきを信奉している生徒がいたりします。そのために私は、『そのテクニックもどきだと解けない問題』を出題して、『テクニックを使うのがいけないとは言わないけど、それがすべてだと思わないことだ』と指導することにしています。

――小原先生のお話は、今の教育が抱える難しさを浮き彫りにするものであると感じました。日曜劇場「御上先生」では、御上先生が「なんのために勉強しているか?」と生徒に問うシーンがあります。小原先生のお話のように、決して、テストで良い点数を取り、入試を突破するためのものだけではない勉強に、多くの人が触れられればと思います。