「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。この記事では、本書より一部を抜粋・編集します。

「自己評価が高すぎる人」が成功できない納得の理由とは?Photo: Adobe Stock

私たちは「何が自分の強みか」を判断できない

 私たちは人生で何かを選択するとき、「自分の強みは何か?」という問いを立ててしまいます。しかし、そもそもこの問い自体が、ミスリーディングだとも言えます。

 というのも、これまでの研究から、私たちの自己評価には非常に強い上方バイアス、つまり「実際の自分の能力よりも上側に誤って評価してしまう傾向」があることがわかっているからです。

 有名なのはコーネル大学の心理学教授デヴィッド・ダニングとジャスティン・クルーガーによる研究です。

 彼らは、心理学を学ぶ学生たちに、文法や論理思考、ジョークなどのさまざまなテストを実施し、各自の得点予想や他の学生たちに比べてどのくらいできたのかを自己評価するよう求めました。結果、わかったのは「成績の悪い生徒ほど自己評価が高い一方で、成績上位の生徒は自己評価が控え目だった」ということです。今日、この発見は人事・組織に関わっている人のあいだでは「ダニング=クルーガー効果」という名前で広く知られるようになりましたが、このような現象は、ダニングとクルーガーの研究以外にも数多く確認されており、これまでの研究から

・90%の人は自分が平均以上に運転が上手だと思っている
・60%の学生はコミュニケーション能力の上位10%に入ると思っている
・90%の教授は自分が平均以上に業績を上げていると思っている

 ということがわかっています。

 何ともはや、人間というのは度し難いものだなと思わされます。

 要するに私たちは「自分は何が得意か」という判断について、相当ポンコツな精度の判断能力しか持っていない、ということです。このように考えていくと「何が得意か」という論点を軸足にしてキャリアの選択を考えることは、ほとんど無意味であるばかりか、むしろキャリアをミスリードする要因になりかねないと言えます。